凪がびくびくと反応をうかがっているうちに、彼女は顎に手を当て、眉間にしわを寄せ始めた。

「いや、こんな素人の意見気にしないで、芸術性のままに弾けて踊った方がいいっすよ」
「いえ、参考になりました」

 彼女はきりっとした顔で凪を見つめた。

「せっかくなので、これからもここに来て私のダンスを見てくれませんか」

 非常事態になった。
 どうしていいかわからず、余計に混乱する。

「……どれくらい?」
「できれば毎日」
(何でこうなるんだよ)

 凪は内心、舌打ちしたくなる心を懸命に抑えつけていた。

「毎日外に出なきゃなんねえの……?」
「はい」

 相手の瞳は爛々としていた。獲物を見つけて狩猟本能が刺激される肉食動物のようだ。

「私の観客になってください」

 数秒、沈黙せざるをえなかった。
 蛇に睨まれた蛙のようだ。自分って小動物だったのか。ずっとハンターだと思っていたが。

蝶野(ちょうの)まゆといいます」
「はあ」
「名前を教えてください」
「俺?」
「私も名乗ったので」

 教えろ、とばかりに蝶野まゆは強い視線で訴えた。

「……五月女凪です」