「俺は、ダンスに賭ける蝶野まゆが、好きだよ」

 もう一度、手を絡め合う。互いの顔を正面から見つめる。
 世界に二人だけしかいないような錯覚を感じるほど、まゆの瞳は艶やかにきらめいていた。

 頬にふれた。
 他には何もいらない。

 彼女が目を閉じる。
 柔らかな温かさに唇を当てる。そっとついばんだ後、もっとほしくなって二度、三度と愛情をねだった。まゆは応えた。熱と人肌の温もりが、凪の悲しみを満たしてくれた。

 ずっと続いてほしいと願った甘い時間も、永遠に続くと思い込んでいた己の哀れさも、終わるのだと、凪は知った。その事実は救いにもなったし、呪いにもなった。けれどそれでよかった。自分はもう閉じていない。

 二人は顔を離し、しばらく恥ずかしそうに笑い合った。

 まゆが凛とした表情を見せる。

「私は、ステージに立つ」

 迷いも何もない、覚悟だけを背負ったパフォーマーの瞳。

「芸術には永遠が住んでる」
「――うん」

 俺も、それが答えだと思うよ。

 心の中でまゆに返事をして、凪は、彼女を自宅まで送り届けた。


「アドレスは消さないで」