「学歴なんかねえけど、契約だろうが何だろうが、職をもぎ取る。死んだように生きるのは、もうやめる」
「だから最近ずっと黒髪なんだ。前は茶髪にピアスまで開けてたのにね」

 横から茶化すような声をかけられ、凪は照れ臭くなる。

 二人は階段を上る。上り続ける。

「これから、どうする?」

 まゆは問いかけた。

 橋にたどり着き、平らな道を真ん中まで行った。フェンスの向こうから見える景色はいつもと変わらない。けれど地平にわずかに残る橙色の日の名残り、灯り始めた街灯、過ぎていく人の流れが、今、鮮明に脳裏に焼きつきかけている。

 写真を、撮りたいと思った。

 街なかの風景をフレームに収めたいという衝動が、突然、走った。

 スマホではなく、カメラで。端末を通すのではなく、フィルムとして。

「私たちの、これからは……」

 恋人が切なげに目を伏せる。
 凪は手の力をぐっと強めた。

「お前は」

 頬に当たる風が、ぬるいような冷たいような、行き場なく吹かれていく昔の自分に重なった。

「チャンスを掴んで、ものにして、仕事に人生を捧げないと」