「凪に、会いたくなって。直接話せるかな?」

 声色から、そこはかとない憂いを凪は感じ取った。手放しで喜んでいるかと思いきや、恋人は何やら気がかりな案件でもあるらしい。

「わかった。今どこにいる?」
「商店街抜けたところの並木通り」
「すぐ向かうよ。確か近くに児童公園があったから、そこで話そう」
「うん。待ってる」

 場所を確認し合い、まゆの方から電話を切った。


 日の入りがずいぶんのびたと、公園の敷地内に入ったとたんに凪は気づいた。夕方六時近く。児童は見当たらなかった。小さな滑り台、ブランコ、二人掛けのベンチ。面積も広くなく、一世帯分がひっそりと遊ぶような、路地の途中に申し訳程度に設置されたのがわかる場所だった。

 まゆは、ブランコを囲う柵のふちに腰かけていた。凪を見つけると、小さく手を振る。凪も振り返して、まゆの隣に座った。

「おめでとう、まゆ。……それで、どうした? 浮かない顔してんじゃん」

 まゆが言葉に詰まっている様子を見て、それとなく手にふれる。恋人は嬉しそうにはにかむ。胸の内を甘やかな衝動が駆ける。