足りない、与えられない、持っていないと嘆いていた今までの己を、存在ごと肯定してもらえたかのような、満ち足りた感情が胸の内に迫った。枯渇していた心が、深い川底へ沈んでいく。

 まゆの腕が背中に回った。
 細い力だった。懸命にこちらを求める温もり。

 与え返したいと、生まれて初めて凪は思った。

 その瞬間、自分の中に棲むどうしようもない小さな男の子が死んだと、悟った。

 終わったのだ。

 冷たい夜風が吹いた。
 なんてことのない寒気。

 凪とまゆは、支え合うように互いの熱を抱きよせていた。