「生まれつきだから。俺は赤ん坊の頃から寝れない子だった。それで母親は産後うつになった。後はどうやって育ったのか記憶にない。金がかかるから病院には何度も行かせられないって、父親は言った。俺は受け入れた。だからこれからも受診することはない」

 まゆはひどく悲しそうな顔をした。

「お前が落ち込むことないのに」

 余計愛しくなってしまう。

 二言目は言わないでおいた。

 まゆが再び顔を上げた。
 熱っぽい瞳で、凪を見つめる。火だと思った。自分が付き合う女は誰もが何かに燃えていた。

「好き」

 告げられた。胸の中に、こらえ切れない感情が潮騒のごとく響き渡る。

「凪が好き。好きだよ」

 唇を噛みしめた。

 手を伸ばしてもいいのだろうか。
 定職にも就けない、一日の生活を生き抜くことがやっとの、低賃金労働者の。

「この先どうなるかわからない。でも今、凪の過去の一部を知れてよかった。凪のことが見えた気がして、嬉しくなった。もっと教えてほしい。私にいろいろな面を見せて」