消え入りそうにつぶやいたまゆの台詞に被せるように、凪は告白した。

「生姜スープなんだ」

 途端、まゆはきょとんとする。無防備な表情を、ああ、可愛いと、素直に思えた自分に驚きを感じる。
 凪は続けた。

「寒くなったら、あそこの自販機で発売するんだ。温かい飲み物で、睡眠作用の効く生姜がすげえいっぱい入ってんの」
「睡眠作用……」
「うん。……俺はね」

 幼少の頃の、自分に背を向けている両親の姿が、脳裏に浮かんだ。

「睡眠障害なんだ」

 夜は、凪にとっての避難場所だった。

 静まり返った暗い歩行者通路を、当てもなくふらふら歩いた日。生まれて初めて、自由だと思った。親から、家から、解放された。社会が眠りについている。けれど時々、自分と同じように、電気の点いている部屋がある。起きているのは赤の他人だ。縁もゆかりもないどこかの誰かの存在が、凪にとっての共同体だった。

「病院は?」
「行かない。治らない」
「何で決めつけるの?」