美しかった。

 凪は、一歩ずつ近づいていく。

 まゆがこちらに気づく。
 表情を硬くさせる彼女に、努めて穏やかな口調になるよう、話しかける。

「踊ってたんだ。……まだ」
「うん」

 まゆはこくりとうなずいた。

 本当は、お前の動画も欠かさずチェックして、見守っていたんだよ、なんて台詞は言わない。自分が彼女の立場だったら、そんな薄気味悪い行為をする男など願い下げだ。

 凪とまゆの間に、沈黙が下りる。
 そのまま幾秒か過ぎ、まゆが口を開いた。

「何か、変な感じ。どれくらい会ってなかったかわからないのに、あんたを目の前にすると自分が自分じゃなくなる」
「……と、いうと?」

 それとなく聞くと、厳しい叱責が飛んできた。

「喧嘩したんじゃないの、私たち? そのままどっちも連絡しなくて、自然消滅だって思って……」
「うん、俺も思った」
「じゃあ、どうして来たの?」
「わからない。俺にも説明がつかない」

 まゆは深いため息をついた。落胆の色と期待のまなざしが込められた反応だった。

「やめるの、私」
「…………え」

 一瞬、自分の耳を疑った。

 だが間違いなく、蝶野まゆはそう言った。