「わかった。じゃあ最後に言っておくけど」

 凪はわざとらしくため息をつき、冷徹な目を向けてやった。

「まゆ自身の、”ダンスを好きな理由”を見つけられない限り、まゆはずっとそのままだよ」

 まゆは返答せず、凪から目をそらした。凪の手を振り払い、怒りをあらわに立ち去った。いっそ前につんのめりそうになるほど速く、まゆは後ろを振り返らずに家路への道を突き進んでいった。

   *

 まゆのSNSに一種の兆しを感じ始めたのは、冬の終わりに差し迫った季節のことだった。

 その頃、凪は店舗先でも異動が決まって、交通の便が少々悪い場所へ配属されていた。まゆのダンス練習を観察し続けられていたY公園へ行くのもままならず、それなりに忙しく、気だるい毎日のサイクルに戻った。しばらくぶりの平穏さが心地よかった凪の目に、まゆの個人動画の再生回数の回り方が、いつもと違って見えた。

 今までなら、ある程度の数字を突破するのに一定数の時間を要していた「壁」が、少しずつ薄くなってきている気がしたのだ。

 徐々にまゆのファンがついている。

 凪は確信した。