凪にほしいものを買い与えるようになった。スマホがほしいと言えばすぐに契約し、ゲームがしたいと言えば専用の機器を探し出し、小遣いを上げろと言うと、額は二、三割増しになった。

 十五歳になる頃、両親からもらえる金額が月四万を超えた時――凪は、ねだるのをやめた。

 おそらく、あの不思議な冷え切った家は、二人の不仲が原因だろう。親は共働きだ。仕事のことや、互いの心の距離、育児ノイローゼの問題もあったのだろう。凪は自分の家族を責めたりはしなかった。二人も人間だ。追いつめられている時、人は自分が情を失っている事実に気づかない。

 誰かに抱きしめられたかった。

 その対象がなぜ、女になるのか。
 父親でもよかったのに。
 求めているのは、なぜ、母親だったのだろう。

 まゆが自分に応えてくれない理由は、どこにあるのか。
 知り合った女たちは、どうしてみんな、離れていくのか。

 凪にはわからない。
 凪は空っぽだからだ。

「もう、いい」

 まゆの瞳から涙がこぼれ落ちた。

「凪にはもう何も求めない」

 掴まれている腕からまゆの力が抜けていく。
 恋人の心が、自分の懐からすり抜けていく気配がした。