「まゆは俺にどうしてほしいの」
「……私は」
「まゆの理想の通りに生きてあげたいよ。ああしてって言われたら、いくらでも叶えるし、何も知らないファンでいてほしいのなら、ずっとそうしててあげる」
「私は」

 言葉が途切れた。
 重苦しい空気が流れる。
 時間だけが無常に過ぎていく。

「何がしたいの」

 凪は尋ねた。

 まゆは言葉を失っていた。
 この子の中に何が眠っているのか、何にわだかまり、何に心動かされ、何を手放せるのか、凪は指し示すことをずっとためらっていた。

 凪の方もわかっていたのだ。
 まゆは凪を心のよりどころにしている。まゆが満たされれば、自分たちの関係も終わることを。

 まゆは夢が叶えば旅立てばいい。けれど凪は空っぽだ。凪が何かで満たされることは、凪自身を慰めるものは、ないのだ。凪に自分を説明できるものは備わってないのだ。

 強いて言うなら、それは女か。

 凪は女に――異性に、すべてを求めていた。

 ずっと誰にも伝えていないことがあった。

 凪は、子どもの頃から、真夜中に外出していた。
 保育園から家に帰る時。小学校から家に帰る時。
 凪は一人だった。