「エミリアちゃん! 今日はお野菜尽くしのグラタンだよ!!」
「やだーー!!」
「ぎゃーー!!!」
魔王城襲撃事件から数週間。お城の中はすっかりきれいになり、以前と変わらない生活が再び訪れていた……と思ったら大間違い。
「こら、エミリア! コユキに魔法を使ってはいけないとあれほど言っただろう!」
「だって、だってぇ……もう、おとうさまもコユキもしらない!」
「ちょ、ちょっとエミリアちゃん! ぎゃ! ビリビリやめて!」
あれ以来、エミリアちゃんは電気魔法を体得した。けれど、まだうまくコントロールが出来なくて、【自分にとって嫌なことが起きる】タイミングでしかまだ魔法を発動させることはできない。なので、毎日の食事の提供がまさに命がけになってしまった。
「こ、コユキ様……ここはこのエゴールにお任せくださっ……ビリィッ!」
「エゴール、無理しないで! もう全身黒焦げだよ!」
「しかし、コユキ様に魔法への耐性はないのですから……かわりにこのエゴールが!」
「きっと大丈夫だよ。今は逃げちゃったけど、あとで絶対調理室に来るから」
エミリアちゃんは魔法を使えるようになって以来、お腹がよく空くようになったらしい。口では嫌々言っているけれど、空腹には勝てず、こっそり調理室にやって来ては、好きではない野菜も魚も完食していく。そのおかげか、最近は少し体も成長したように見える。……エゴールはエミリアちゃんの残りを食べることが出来なくて残念そうだけど。まあ、エゴールの分も作っているから問題ないでしょう。
「まったく、コユキの手をこんな風に煩わせるとは」
レオさんはそう言って、スプーンに乗せた熱々グラタンにふーふーと息を吹きかける。ただでさえ忙しいのに、襲撃を受けてからは城の修復や魔国のアフターケアで大変そう。……それに、再び襲撃を受ける可能性だってある。勇者はいつやってくるのか分からない。
先日魔王城を襲撃した勇者一行はすぐに裁判にかけられた。あっという間に判決が下り、刑が執行された。
「まあ、何かあればまたジョセフに頼んで捕まえてきてもらうよ」
「……僕だって人間だぞ。魔法への耐性はないんだが」
そう。なぜか勇者一行は今、この魔王城で働かされている。
本当は、死刑になるはずだったらしい。この国では捕らえられた勇者は死刑、そういう判例しかなかった。それをくつがえしたのは、他でもないエミリアちゃんだった。
「だって、また【ほうふく】されたらイヤじゃない。そのときはエミリアが【魔女王】かもしれないのよ」
とのこと。そして、言葉を続ける。
「……それに、ゆうしゃが死んじゃったら、ゆうしゃのかぞくがかわいそう」
母親を亡くしたことのあるエミリアちゃんらしい意見だった。それがレオさんの胸を打ち、裁判にも反映された。ジョセフ達に降りた刑は『一生魔王城で働くこと』というものになった。終身刑のようなものだけど、生きているだけましだろう。この刑に拍子抜けしていたのは、他ならぬジョセフ達。死刑を覚悟していただろうから、しばらく口をぽかんと開けていた。
なので今、剣士は兵士、魔導士はメイド、勇者であるジョセフは執事として働かされている。
「さあ、ジョセフ! エミリア様を探しに行くのです」
「……なんで僕が」
「文句を言うと、こうですよ!」
「……っ!」
刑罰とはいえ、勇者たちが素直にいう事を聞くとは思えない。いつレオさん達の寝首をかきにいくか。それを不安に思ったのはエゴールだけじゃない。魔国城にいるほとんどの人、もちろん私も、こんなに自由にして大丈夫なのかな? とは思った。しかし、この時ばかりはレオさんに対して「さすが魔王だな……」と思った。
「ほら、早く動かないと毒が回りますよ~」
「……ほんと、ひでぇ奴らだ!」
勇者たちには特殊な首輪をつけられている。今エゴールが持っているスイッチを押すと毒が注入される。それは魔国城の人を襲おうとしたり、逃亡しようとすると同じように体内に毒が入り込むらしい。死んでしまうような猛毒ではないけれど、体中に強い痛みを感じるものらしく……ジョセフは首輪を握りしめながら崩れ落ちる。
「わかったから、それやめろ!」
「はいはいっと」
エゴールがスイッチを押すのをやめると、ジョセフはよろよろと立ち上がり、エミリアちゃんを追いかけにいった。
「全く……エミリア様の恩情で生きているというのに。コユキ様は迷惑していないですか? スイッチ、渡しますか?」
「いや、いいよ。怖いし」
「そうですか。私もエミリア様を探しに行ってまいりますので!」
エゴールは光の速さでいなくなっていく。私はそれを見送った。
「しかし、エミリアもだいぶマシになって来たな」
「そうですね。幼稚園のお弁当も、残さないで食べてくれるんですよ。この前の参観日でも立派に発表していたし……」
エミリアちゃんが通っている幼稚園ではつい最近、参観日が行われた。レオさんに誘われて、私もついて行ったのだけど……想像していたよりもずっと成長していた。将来の夢について子どもたちが一人ずつ発表していたのだけど、エミリアちゃんは堂々と胸を張っておた。
「わたしはおおきくなったら、おとうさまの跡をついで、りっぱな魔女王になりたいです! そして、みんながなかよくくらす魔国をつくっていきたいです!」
一国の王女様がそんな事を言ったおかげか、教室中は大喝采。私の隣にいたレオさんは人目をはばからず感動の涙を流す。かくいう私も、その成長した姿にこみ上げてくるものがあった。
「……それでコユキ、話がある。あとで執務室に来てもらってもいいか?」
「はい、わかりました。あ、夜食いりますか?」
「いい、遠慮する」
「やだーー!!」
「ぎゃーー!!!」
魔王城襲撃事件から数週間。お城の中はすっかりきれいになり、以前と変わらない生活が再び訪れていた……と思ったら大間違い。
「こら、エミリア! コユキに魔法を使ってはいけないとあれほど言っただろう!」
「だって、だってぇ……もう、おとうさまもコユキもしらない!」
「ちょ、ちょっとエミリアちゃん! ぎゃ! ビリビリやめて!」
あれ以来、エミリアちゃんは電気魔法を体得した。けれど、まだうまくコントロールが出来なくて、【自分にとって嫌なことが起きる】タイミングでしかまだ魔法を発動させることはできない。なので、毎日の食事の提供がまさに命がけになってしまった。
「こ、コユキ様……ここはこのエゴールにお任せくださっ……ビリィッ!」
「エゴール、無理しないで! もう全身黒焦げだよ!」
「しかし、コユキ様に魔法への耐性はないのですから……かわりにこのエゴールが!」
「きっと大丈夫だよ。今は逃げちゃったけど、あとで絶対調理室に来るから」
エミリアちゃんは魔法を使えるようになって以来、お腹がよく空くようになったらしい。口では嫌々言っているけれど、空腹には勝てず、こっそり調理室にやって来ては、好きではない野菜も魚も完食していく。そのおかげか、最近は少し体も成長したように見える。……エゴールはエミリアちゃんの残りを食べることが出来なくて残念そうだけど。まあ、エゴールの分も作っているから問題ないでしょう。
「まったく、コユキの手をこんな風に煩わせるとは」
レオさんはそう言って、スプーンに乗せた熱々グラタンにふーふーと息を吹きかける。ただでさえ忙しいのに、襲撃を受けてからは城の修復や魔国のアフターケアで大変そう。……それに、再び襲撃を受ける可能性だってある。勇者はいつやってくるのか分からない。
先日魔王城を襲撃した勇者一行はすぐに裁判にかけられた。あっという間に判決が下り、刑が執行された。
「まあ、何かあればまたジョセフに頼んで捕まえてきてもらうよ」
「……僕だって人間だぞ。魔法への耐性はないんだが」
そう。なぜか勇者一行は今、この魔王城で働かされている。
本当は、死刑になるはずだったらしい。この国では捕らえられた勇者は死刑、そういう判例しかなかった。それをくつがえしたのは、他でもないエミリアちゃんだった。
「だって、また【ほうふく】されたらイヤじゃない。そのときはエミリアが【魔女王】かもしれないのよ」
とのこと。そして、言葉を続ける。
「……それに、ゆうしゃが死んじゃったら、ゆうしゃのかぞくがかわいそう」
母親を亡くしたことのあるエミリアちゃんらしい意見だった。それがレオさんの胸を打ち、裁判にも反映された。ジョセフ達に降りた刑は『一生魔王城で働くこと』というものになった。終身刑のようなものだけど、生きているだけましだろう。この刑に拍子抜けしていたのは、他ならぬジョセフ達。死刑を覚悟していただろうから、しばらく口をぽかんと開けていた。
なので今、剣士は兵士、魔導士はメイド、勇者であるジョセフは執事として働かされている。
「さあ、ジョセフ! エミリア様を探しに行くのです」
「……なんで僕が」
「文句を言うと、こうですよ!」
「……っ!」
刑罰とはいえ、勇者たちが素直にいう事を聞くとは思えない。いつレオさん達の寝首をかきにいくか。それを不安に思ったのはエゴールだけじゃない。魔国城にいるほとんどの人、もちろん私も、こんなに自由にして大丈夫なのかな? とは思った。しかし、この時ばかりはレオさんに対して「さすが魔王だな……」と思った。
「ほら、早く動かないと毒が回りますよ~」
「……ほんと、ひでぇ奴らだ!」
勇者たちには特殊な首輪をつけられている。今エゴールが持っているスイッチを押すと毒が注入される。それは魔国城の人を襲おうとしたり、逃亡しようとすると同じように体内に毒が入り込むらしい。死んでしまうような猛毒ではないけれど、体中に強い痛みを感じるものらしく……ジョセフは首輪を握りしめながら崩れ落ちる。
「わかったから、それやめろ!」
「はいはいっと」
エゴールがスイッチを押すのをやめると、ジョセフはよろよろと立ち上がり、エミリアちゃんを追いかけにいった。
「全く……エミリア様の恩情で生きているというのに。コユキ様は迷惑していないですか? スイッチ、渡しますか?」
「いや、いいよ。怖いし」
「そうですか。私もエミリア様を探しに行ってまいりますので!」
エゴールは光の速さでいなくなっていく。私はそれを見送った。
「しかし、エミリアもだいぶマシになって来たな」
「そうですね。幼稚園のお弁当も、残さないで食べてくれるんですよ。この前の参観日でも立派に発表していたし……」
エミリアちゃんが通っている幼稚園ではつい最近、参観日が行われた。レオさんに誘われて、私もついて行ったのだけど……想像していたよりもずっと成長していた。将来の夢について子どもたちが一人ずつ発表していたのだけど、エミリアちゃんは堂々と胸を張っておた。
「わたしはおおきくなったら、おとうさまの跡をついで、りっぱな魔女王になりたいです! そして、みんながなかよくくらす魔国をつくっていきたいです!」
一国の王女様がそんな事を言ったおかげか、教室中は大喝采。私の隣にいたレオさんは人目をはばからず感動の涙を流す。かくいう私も、その成長した姿にこみ上げてくるものがあった。
「……それでコユキ、話がある。あとで執務室に来てもらってもいいか?」
「はい、わかりました。あ、夜食いりますか?」
「いい、遠慮する」