「……いや、死んではいないな。気絶しているうちに早く取り押さえろ」
「はっ!」

 兵士たちがジョセフ達を抱えていなくなっていく。

「エミリア、降りておいで」

 レオさんは天井を見上げて、ぷかぷかと浮いたままのエミリアちゃんに声をかけた。エミリアちゃんはまだ『バチバチ』としたものに囲まれていて、なんだか放心状態だ。

「エミリアちゃん、どうしたんですか?」
「覚醒したんだ、魔法を」
「魔法?!」
「あぁ。雷の魔法……グラフィラが得意としていたものだ」

 エミリアちゃんはハッと正気を取り戻す。それと同時に彼女も落ちてくるけれど、レオさんがさっと抱き留めた。

「エミリア、よくやったな」
「……おとうさま?」

 エミリアちゃんの目に涙が溢れ出す。レオさんの首に腕を回して縋り付き、わんわんと泣き始める。レオさんも、その小さな体を包み込む様に抱きしめていた。互いの無事を確かめ合うようなハグ。見ている私の目の奥も何だかツンと痛んでくる。気づけば私の足元にいたエゴールときたら、まるで滝のように涙を流していた。

「みなさん、ご無事でよかった!!」
「エゴール。勇者たちは?」
「地下牢へ入れておきました。すぐに裁判にかけることができるよう、準備を進めておきます」
「すまない。……コユキも、悪かった」
「へっ?」

 レオさんが申し訳なさそうに眉を下げている。

「いやいや! もとはと言えば、私がエミリアちゃんの事をちゃんと見てなかったからだし……そもそも、私がジョセフに会っちゃったせいでもあるし……」
「結果として、コユキにも危険な目に遭わせた。あのような者が近づいて来ることを考えていなかった私にも責任がある」

 レオさんはエミリアちゃんを抱きかかえながら何やら考え始める。エミリアちゃんは落ち着いたのか、レオさんから顔を離した。

「ねぇ、おとうさま」
「なんだ、エミリア」
「おなかすいた」

 エミリアちゃんがそう言うと、どこからともなく「ぐぅ~」とお腹が鳴る音が聞こえてくる。その瞬間、レオさんの顔が真っ赤になった。

「もしかして、今の音……レオさん?」
「聞かなかったことにしてくれ」
「あはは! おとうさま、おもしろい!」

 エミリアちゃんの顔に笑顔が戻った。ほっと胸を撫でおろしたのは、きっと私だけじゃないはずだ。

「私もおなかペコペコだし、すぐ何か作ってきますよ。そうだ、兵士のみんなもお腹空いてるよね?」
「え? そうでしょうねぇ……かく言う私も空腹です!」
「それじゃ、調理室のスライムさんと協力して簡単な朝食作ってきます。待っててね、エミリアちゃん」
「うん!」

 私はスライムさん達に声をかけて、私専用調理室のドアを開ける。ここは無事で、荒らされていない。

「なに作るんですかぁ、コユキ」
「ん~~手っ取り早く食べられるものがいいよね……それでお腹を満たせるとなると」

 考えていると、ぽっと頭の中で思いつく。

「よし! おにぎりと豚汁にしちゃお! 豚汁は生姜を効かせて体を温めてもらおうかな。スライムさん達、野菜切るのとおにぎりを握るの、協力してくれる?」
「もちろん! よ~し、頑張るぞぉ!」

 スライムさん達は「おぉ!」と腕(あれは腕なのかな?)を高く掲げる。先ほどまで戦場で戦っていたレオさんや兵士の皆さんを癒す方法は、私にはこれしかない。これからが、私の戦いなんだ。