「コユキ様! いい大人なんですから、子どものせいにしないでください! ここは危険です、早く戻って!」
エゴールは近くにある隠し通路を開き、私たちを押し込もうとする。すると、キョロキョロとあたりを見回していたエミリアちゃんが口を開く。
「おとうさまは?」
「そういえば、レオさんいないね?」
「ま、魔王様は……その……」
エゴールは突然歯切れが悪くなる。そして、ちらりと廊下の向こう、大広間がある方向を見た。
「し、指揮を執るためにお忙しくいらっしゃいます! どこにいるのか申し上げることはできません!」
「おおひろまにいるのね、ありがと!」
「ど、どうして分かったのですか!」
「目は口ほどにものをいうんだよ。顔だけ見たら、すぐにシェルターに戻るから!」
走り始めたエミリアちゃんを追う。廊下の先では、エミリアちゃんは大広間の大きな扉を一人で開けてしまっていた。
「おとうさま!」
「……エミリア! どうしてここに……!」
レオさんの大きな声が聞こえてきた。てっきり叱りつけるのだと思ったけれど……そこからは何も聞こえてこない。大広間にたどり着いた私の眼に飛び込んできたのは、エミリアちゃんを抱きしめるレオさんの姿だった。
「驚かしてすまない。怖かったか?」
「……コユキといっしょだからへいき」
レオさんは顔をあげて私を見た。私は彼を安心させるように強く頷く。でも、レオさんが無事で本当に良かった。もし何かあったら……グラフィラ様のようになってしまったら、そんな不安が私の中で渦巻いていたから。元気な姿を見ることが出来たら、私も安心する。
「……よかった、無事で」
「ほら、早く戻りなさい。コユキのいう事をちゃんと聞くんだよ」
「はーい!」
エミリアちゃんもすっかり元気になったみたいで良かった。私の元へ戻ってきたエミリアちゃんに手を差し伸べる。この小さな手を守るのは、今の私の役目だ。敵はレオさん達がすぐに何とかしてくれる。
――そう思った瞬間、私の手は黒い何かに包まれ……一気に縛り上げられる。
「っ!?」
「エミリア! コユキ!」
私はそのまま宙に浮いていく。黒い何かに巻きつかれ、声を出すどころか、身動きを取ることすらできない。近くからはエミリアちゃんの泣く声が聞こえてきた。
「これ以上近づくな!」
「っう!?」
私の目の前に真っ黒なマントを着た大男が立つ。そして、目の前には銀色に光るものを突き付けられた……これは、剣だ。私が顔を動かすと、大男が顔を覗き込んでくる。
「動くな」
その声はとても冷たく、私への敵意が刺さる様に伝わってくる。怖くて動けずにいると、エミリアちゃんの泣き声に混じる様に複数の足音が近づいて来るのが聞こえてきた。そして、まだ若い女と男の声が聞こえる。
「やっと姿を現したか、王女とその食事係は」
「城中探したのに全然見つからなかったから、自分たちから出てきてくれて助かったわぁ」
「……ッ貴様ら、エミリアとコユキに何をする気だ!」
レオさんの声が大広間に響く。それに呼応するように多数の足音が近づいてきた。きっと魔国の兵隊たちだ。
「おっと、それ以上は近づくな! こいつらがどうなっていいのか!」
大男がそう叫ぶ。
「ここは魔導士の私の出番ね。――出てきなさい、氷の壁よ!」
女が長い棒(あれはもしかして、魔法の杖?)を振ると、大広間の入り口に厚い氷の壁が出現した。これで、私たち三人と侵入者たちは外とは隔絶されてしまった。
「やーーーーー!!!」
「エミリア!!」
エミリアちゃんの声が一際大きくなる。エミリアちゃんも縛り上げられ、同じように宙に浮いていた。私に向けられていた大男の剣の切っ先が、今はエミリアちゃんに向いている。エミリアちゃんの眼からは大粒の涙があふれている。
「やめろ、エミリアには手を出すな!」
「ひ、人質なら私だけで十分でしょう! エミリアちゃんを離して!」
「たすけて、おとうさま! コユキ!!」
「おい、女の方はどうするんだったっけ?」
大男の呼びかけに、誰かが笑った。
「言っただろう? その人は俺の命の恩人だと。あまり傷つけないでくれ」
その声には聞き覚えがあった。私ははっと顔をあげる。眼の前に立つその姿。そこにいたのは、見覚えのあるマントの若い男。迷子になったエミリアちゃんを見つけるのを助けてくれて、昨日なんか、美味しそうにリゾットを食べてくれた彼の姿が、そこにあった。
「まさか、うそ、だよね……ジョセフ……?」
「そのまさか、だよ。コユキ」
【彼】はマントを脱いでいく。私には見せることのなかった正体が、露わになっていく。その姿は私と全く同じ姿……。
「にんげん……?」
エゴールは近くにある隠し通路を開き、私たちを押し込もうとする。すると、キョロキョロとあたりを見回していたエミリアちゃんが口を開く。
「おとうさまは?」
「そういえば、レオさんいないね?」
「ま、魔王様は……その……」
エゴールは突然歯切れが悪くなる。そして、ちらりと廊下の向こう、大広間がある方向を見た。
「し、指揮を執るためにお忙しくいらっしゃいます! どこにいるのか申し上げることはできません!」
「おおひろまにいるのね、ありがと!」
「ど、どうして分かったのですか!」
「目は口ほどにものをいうんだよ。顔だけ見たら、すぐにシェルターに戻るから!」
走り始めたエミリアちゃんを追う。廊下の先では、エミリアちゃんは大広間の大きな扉を一人で開けてしまっていた。
「おとうさま!」
「……エミリア! どうしてここに……!」
レオさんの大きな声が聞こえてきた。てっきり叱りつけるのだと思ったけれど……そこからは何も聞こえてこない。大広間にたどり着いた私の眼に飛び込んできたのは、エミリアちゃんを抱きしめるレオさんの姿だった。
「驚かしてすまない。怖かったか?」
「……コユキといっしょだからへいき」
レオさんは顔をあげて私を見た。私は彼を安心させるように強く頷く。でも、レオさんが無事で本当に良かった。もし何かあったら……グラフィラ様のようになってしまったら、そんな不安が私の中で渦巻いていたから。元気な姿を見ることが出来たら、私も安心する。
「……よかった、無事で」
「ほら、早く戻りなさい。コユキのいう事をちゃんと聞くんだよ」
「はーい!」
エミリアちゃんもすっかり元気になったみたいで良かった。私の元へ戻ってきたエミリアちゃんに手を差し伸べる。この小さな手を守るのは、今の私の役目だ。敵はレオさん達がすぐに何とかしてくれる。
――そう思った瞬間、私の手は黒い何かに包まれ……一気に縛り上げられる。
「っ!?」
「エミリア! コユキ!」
私はそのまま宙に浮いていく。黒い何かに巻きつかれ、声を出すどころか、身動きを取ることすらできない。近くからはエミリアちゃんの泣く声が聞こえてきた。
「これ以上近づくな!」
「っう!?」
私の目の前に真っ黒なマントを着た大男が立つ。そして、目の前には銀色に光るものを突き付けられた……これは、剣だ。私が顔を動かすと、大男が顔を覗き込んでくる。
「動くな」
その声はとても冷たく、私への敵意が刺さる様に伝わってくる。怖くて動けずにいると、エミリアちゃんの泣き声に混じる様に複数の足音が近づいて来るのが聞こえてきた。そして、まだ若い女と男の声が聞こえる。
「やっと姿を現したか、王女とその食事係は」
「城中探したのに全然見つからなかったから、自分たちから出てきてくれて助かったわぁ」
「……ッ貴様ら、エミリアとコユキに何をする気だ!」
レオさんの声が大広間に響く。それに呼応するように多数の足音が近づいてきた。きっと魔国の兵隊たちだ。
「おっと、それ以上は近づくな! こいつらがどうなっていいのか!」
大男がそう叫ぶ。
「ここは魔導士の私の出番ね。――出てきなさい、氷の壁よ!」
女が長い棒(あれはもしかして、魔法の杖?)を振ると、大広間の入り口に厚い氷の壁が出現した。これで、私たち三人と侵入者たちは外とは隔絶されてしまった。
「やーーーーー!!!」
「エミリア!!」
エミリアちゃんの声が一際大きくなる。エミリアちゃんも縛り上げられ、同じように宙に浮いていた。私に向けられていた大男の剣の切っ先が、今はエミリアちゃんに向いている。エミリアちゃんの眼からは大粒の涙があふれている。
「やめろ、エミリアには手を出すな!」
「ひ、人質なら私だけで十分でしょう! エミリアちゃんを離して!」
「たすけて、おとうさま! コユキ!!」
「おい、女の方はどうするんだったっけ?」
大男の呼びかけに、誰かが笑った。
「言っただろう? その人は俺の命の恩人だと。あまり傷つけないでくれ」
その声には聞き覚えがあった。私ははっと顔をあげる。眼の前に立つその姿。そこにいたのは、見覚えのあるマントの若い男。迷子になったエミリアちゃんを見つけるのを助けてくれて、昨日なんか、美味しそうにリゾットを食べてくれた彼の姿が、そこにあった。
「まさか、うそ、だよね……ジョセフ……?」
「そのまさか、だよ。コユキ」
【彼】はマントを脱いでいく。私には見せることのなかった正体が、露わになっていく。その姿は私と全く同じ姿……。
「にんげん……?」