おかあさまみたいになっちゃうかも、エミリアちゃんはそう続けた。私は何も言う事ができなかった。遠くから、また爆発音みたいな音が聞こえてくる。もしかしたら、今、レオさんが傷ついているかもしれない……その恐怖が私をも包み込む。

「大丈夫、大丈夫」

 私はそう言いながら、エミリアちゃんを抱きしめ続けた。そう言っている内に、爆発音は遠ざかっていき、次第に静かになっていく。エミリアちゃんと私は顔を見合わせた。

「……もしかして、終わったのかな?」

 私の言葉に、エミリアちゃんはこくりと頷いた。

「もう、でてもだいじょうぶよね」
「どうだろう? エゴールが迎えに来るまで待っていた方が……あ、ちょっと!」

 腕の力が緩んだ瞬間、エミリアちゃんがポンッと抜けて走り出す。私はそれに追いつこうとするけれど、逃げ慣れたエミリアちゃんの方が素早い。ようやっと捕まえたと思ったら、私たちはお城の廊下にいた。廊下は閑散としていて誰もいないけれど、所々に焦げた跡や、壁が壊された痕跡が残っている。

「はやくいこ!」
「ちょ、ちょっとエミリアちゃん!」

 エミリアちゃんは私の手を引っ張り再び走り出した。扉を見つけるたびに、それを開けてはレオさんを探していく。しかし、レオさんの姿はどこにもない。

「おとうさま、どこにいるの……?」


 エミリアちゃんの焦りが募る。その時、遠くから足音が聞こえてきた。……敵かもしれない。私はエミリアちゃんを抱きかかえる。敵にバレて、エミリアちゃんに何かあったらどうしよう。小さな体をぎゅっと抱きしめると、エミリアちゃんは「あっち!」と壁を指さした。

「え?」
「レンガのなかで一個だけあかいのがあるでしょう? それおして」
「こ、これ?」

 言われた通り赤いレンガを押す。すると、壁が動き出して、見たこともない通路が現れた。

「え? え?」

 戸惑っていると、エミリアちゃんが「ほら、はやくいくわよ!」と私に声をかける。足音がどんどん近づいて来る、私は慌てて飛び込むと壁はすぐに閉じられた。

「な、なんなのこれ……?」
「かくしつうろよ。おしろにたくさんあるわ。さ、はやくいきましょう」
「うん……」

 私たちは隠し通路の中を進む。行き止まりにたどり着くと、壁は自動的に開いた。目の前にはレオさんの執務室がある。

「おとうさま!」

 エミリアちゃんは私の腕から飛び出してドアを開けるけれど、ここにもレオさんの姿はない。

「おとうさま、どこにいるの……?」

 エミリアちゃんの声が涙交じりになってきた。私がその小さな肩に手を添えた時、再び大きな足音が聞こえてきた。

「コユキ、つぎはあっち!」
「これね!」

 本棚の横にあった赤いレンガを押しこむと本棚が動き、私の部屋にあったような階段が現れた。この仕掛けはお城中にあるみたいだ。

「エミリアちゃん、よくこんな隠し通路のこと知ってるね」

 階段を降りながらそう聞くと、エミリアちゃんは「エゴールがおしえてくれたの」と答える。

「……なにかあったときは、これをつかってにげなさいって」
「そっか。でもこの階段、どこにつながってるのかな」

 私の部屋にあった階段よりも長い。朝から移動してばかりだからなんだか疲れてきた。出口から漏れる光が徐々に大きくなっていくのが、今の私の希望だった。エミリアちゃんも疲れてきたみたいで、私たちは何度か座り込んで休憩する。

「……おなかすいたなぁ」

 エミリアちゃんがそう呟く。私もお腹がペコペコだ。

「そうだね」
「おとうさまも、おなかすいてるかな」
「何か作って持っていけたらいいんだけど、そうもいかないしね」
「ほんと! めいわくだわ、こんなときにお城をおそうなんて!」

 そう憤慨するエミリアちゃんをなだめる。隠し階段を進んでいくうちに、何度か爆発音が響くのが聞こえた。戦闘はまだ続いているみたいで、その度にエミリアちゃんが私に抱き着いてくる。

 歩いていると、玄関が近づいてきた。傷ついた兵士たちが横たわっている。……みな、満身創痍だ。

「……エミリア様! コユキ様! どうしてここに!?」

 私たちに気づいたエゴールが近づいて来る。

「エゴール! 無事でよかった!」
「そんなのんきな事を言っている場合ですか! シェルターにいてくださいと言ったじゃないですか!」
「ご、ごめん、でもエミリアちゃんが……」