「おかえりなさいませ!」
エゴールが待ちわびていたみたいで、魔国に着いた瞬間、飛びつく勢いでそう声をかけてきた。
「エゴール、技術部にこれを運んでくれ」
「これはなんですか?」
レオさんがマントから何かを取り出した……私はぎょっと目を丸める。
「ちょっと! それうちのテレビとパソコンじゃないですか!!」
「コユキの世界の便利なアイテムだ。解析して、我が国でも使えるようにしたい」
「かしこまりました!」
「しばらく借りるぞ、コユキ」
「え、ちょっと待ってください! 解析って……もしかしてバラバラにするつもりじゃ……」
恐る恐るそう尋ねると、レオさんは視線を私からそらした。これは絶対に、バラバラに解体されてしまうに違いない。それだけは阻止したいけれど、テレビとパソコンを持ったエゴールは光の速度でいなくなってしまう。
「大丈夫だ、コユキが帰るまでには必ず元通りにする……多分」
「多分じゃ困るんですけど!」
「それでは、仕事を残しているの失礼する」
「ちょっと、逃げるな!」
私がレオさんのマントを掴もうとすると、彼はモヤとなって姿を消してしまう。私ががっくりと肩を落とすと、エミリアちゃんがきゅっと手を握ってくれた。
「コユキ、げんきだして」
「……でるかな、元気」
「おとうさまにまかせておけばだいじょうぶよ! だって、おとうさまは魔国いちのまほうつかいでもあるんだから!」
エミリアちゃんは胸を張っている。
「魔法でパソコン、直せるかな……」
「いざとなったら、エミリアがなおしてあげるから! ……まだまほうつかえないけど。そうだ、コユキ! コユキのおかあさまのしょうぞうが、みせて」
しょんぼりと肩を落としたまま、私はエミリアちゃんに引っ張られて自室に向かう。テーブルに写真を広げると、エミリアちゃんは感嘆の声をあげた。
「すごい、コユキのせかいのしょうぞうがは、こんなに小さいのね……」
「肖像画じゃなくて写真っていうんだけどね。これが最後に撮った写真ね」
私は小学校の入学式の写真をエミリアちゃんに見せる。
「このちいさい子がコユキ? かわいい!」
「そう? ありがと」
エミリアちゃんなりに気を使ってくれているのが分かる。私も少しはシャンとしなきゃと、背筋を伸ばした。
「たのしかったなぁ、コユキの世界。てれびはおもしろかったし、ピザはおいしかったし」
私はここでネタ晴らしをする。
「エミリアちゃんが食べたピザ、お野菜とか海老とか入ってたんだよ。気づいてなかったみたいだけど」
「うそ!」
「ちゃんと食べる事できたじゃん。普段もこうだといいんだけど……」
「うーん、気づかなかった。……たのしかったからかな?」
「ん?」
エミリアちゃんは私の目をまっすぐ見つめる。
「おとうさまとコユキと三人で、コユキの世界にいって、ピザたべたのがたのしかったの」
そして、満面の笑みを見せる。それが何だか嬉しくて、私も同じように笑っていた。
「今度は私がピザを作るからさ、また三人で食べようよ」
「いいよ! でも、そのときはおやさいなしね」
「それはダメ」