「おいしそ〜。コユキはどれがすき?」
「えっとね……まずはマルゲリータかな。一番スタンダードっぽいし。あとは、これとこれとこれっと」

 私はささっとマウスを動かして決済画面まで進んでいく。あまりの素早さに、エミリアちゃんもレオさんも、きょとんとした表情をしていた。

「4つも注文するのか? 三人で食べきれるか……」
「一つのピザに4つの味が乗っているのを注文したんです。折角だから、エミリアちゃんとレオさんに色んな種類食べて欲しいし。それに……」

 私はレオさんの袖を引っ張り、耳打ちをする。

「エミリアちゃんが食に興味を持った絶好のチャンスなので、嫌いな野菜やエビのピザも注文しちゃいました」
「なるほど。エミリアに見せないようにあんな速さで注文していたわけか」

 私たちの話に興味がないのか、エミリアちゃんはまたテレビを真剣に見始めていた。ニュース番組になっているけれど、楽しいのかな?

「しかし、想像していたよりも便利な世界だな。コユキの世界は……この【テレビ】や【パソコン】があればもっと我が国も豊かにすることができるかもしれない」

 レオさんはパソコンを持ち上げたり、画面に触れたりしている。私は文字の打ち方など使い方を簡単に説明している内にチャイムが鳴った。私はお金を用意して玄関に向かう。

「こんばんは、ハッピーピザのお届けです」
「はーい」

 配達員とお金のやり取りをしていると、エミリアちゃんが玄関までやってきた。

「コユキ、それが【ピザ】?」
「う、うん。すぐ持っていくから戻ってて……」

 エミリアちゃんは目を輝かせながらピザを見つめている。その視線に気づいたのか、配達員はにっこりと笑う。

「お嬢ちゃん、素敵なツノつけてるね。コスプレパーティーでもしてるの?」
「ふふん! そうでしょう? このツノは【おうけ】のあかしなのよ」
「あははっ! そういう遊びなのかな?」
「あそびじゃなーい! しつれいしちゃうわ!」

 ぷんっと怒って顔を赤くするエミリアちゃん。私は冷汗を流しながら、お金を渡した。配達員は笑いながら帰っていく。
 このツノ、王家の証だったんだ……新事実を知ってしまった。

「もう! このせかいのひとはみんなああなのかしら」
「気を取り直してよ、エミリアちゃん。ピザきたよ」

 テーブルの上に置いてあったものをすべて避けて、ピザの箱を置く。私は台所の戸棚から飲んでいなかったジュースを取り出して、氷を入れたグラスに注いでいった。

「じゃあ、箱開けるよ」
「わーい!」

 箱を開けると、わずかに湯気が立ち上った。『チーズたっぷり』のオプションを付けたから、野菜やエビはチーズの下に隠れている。さっきまで怒っていたエミリアちゃん、今度はニコニコと笑っている。

「さっそくいただきましょう。コユキ、フォークとナイフを」
「ピザは手で食べるんだよ。熱いから注意してね」
「手で? それはコユキがつくる【おにぎらず】と一緒だな」

 二人にお手拭きを渡す。レオさんが先にピザ、マルゲリータの部分を手に取り、私も続く。エミリアちゃんは私たちを手本にするように、恐る恐るピザを手に取ろうとした。

「いただきます……」

 エミリアちゃんはふーふーと少し冷ましてから、一口かじる。私たちはその様子を見守った。エミリアちゃんは目を大きく見開き、そして「おいしい!」と大きな声を出す。

「あ、エミリアちゃん、チーズが」

 とろりと伸びていくチーズに、エミリアちゃんは目を輝かせる。

「コユキ、これ、すっごくすっごくおいしいわ!」
「そんなに旨いのか?」
「うん! コユキ、これつくれる?」
「もちろん。いつでも作ってあげるよ」
「やったー!」

 レオさんも一口食べて「旨い」と頷いている。エミリアちゃんはあっという間に一枚目を食べて、二枚目……野菜たっぷりミックスピザに手を伸ばしていた。勢いそのまま、大きな口を開けてかぶりつく。そして「これもおいしい」と笑顔で言う。私が作った料理でここまでの笑顔を引き出せたことはなかった。さすが大手ピザ屋……けれど、そこまでショックではなかった。エミリアちゃんの好き嫌いを直す糸口がつかめるような気がする。そう思えば、このピザだって私にとっては立派な教材の一つ。レオさんはエミリアちゃんが瞬く間にピザを食べていく様を見て驚いている。そして、私を見てニヤリと笑った。しめしめ、嫌いな野菜や魚介類が入っているとも知らないで……彼の目がそう語っている。私は同じように笑いかえす。

 ピザはあっという間になくなってしまった。エミリアちゃんはまんぷくになったお腹を撫でながら、少し眠たそうにしている。私は写真と、これから参考になるかもしれない、とレシピ本や大学の教科書を持っていく。

「もういいか? しばらく戻ってくることはできないのだから、後悔がないように」

 先に玄関に来ていたレオさんが私を見てそう聞いた。私は頷く。

「大丈夫です。大事な物は持ったので」
「わかった。魔国に戻ろう」

 なんだか、レオさんのマントの中が膨らんでいる気がする。しかし、レオさんはさっさと歩きだしてしまった。私はエミリアちゃんとしっかり手をつないで、先ほどのコンビニにもう一度向かう。出現した場所に行かないと魔国に戻ることはできないらしい。コンビニの事が気になって仕方がない親子二人を何とか押しとどめて、私は魔国に戻ることにした。三度目の召喚、慣れたものだ。