「知り合いの女の子が迷子になっちゃって……今探している最中だったんです」
「おや、それは大変ですね。もしよろしかったらお手伝いしましょうか?」
「へ? い、いやいや! 申し訳ないですよ、今だってこうやってご迷惑かけているのに……」

 落ちたものは全て彼が持っていた袋の中に仕舞った。私が首をぶんぶんと横に振っていると、彼は「ふふふ」と声をあげて笑う。

「気にしないでください。僕、今暇ですし。それに、困っている人がいたら助けたくなる性分なんで」
「……それなら、よろしくお願いします」

 私は彼にエミリアちゃんの特徴を伝える。黒髪に小さなツノ、ふんわりとしたワンピース。野菜と魚が大嫌いだから、そのお店には近づかないと思う。彼は「わかりました」と頷く。

「わかりました、さっそく行きましょう」
「はい!」
「でも……黒髪にツノだなんて、まるでこの国の魔王と同じですね」

 肩がびくりと跳ねる。

「まさか、魔王の血縁だったりして……」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか」

 慌てて否定したけれど、なんだかぎこちない。ばれてしまっていないか心配だったけれど、彼はこれ以上聞くことはなかった。
 私たちは城下町をくまなく探し始める。エゴールからまだ連絡はないから、あっちもまだ見つかっていないみたいだ。

「路地の方ってみましたか?」

 もうすぐ日が傾いてきた。焦りが募り始めた時、彼がそう問いかけてきた。

「いいえ。私、大きな通りばっかり探してました……」
「意外とああいうところにいるかもしれませんよ。行ってみませんか?」

 頷くと、彼は私の腕を引いて建物と建物の間に入っていく。路地は薄暗くて、ホコリっぽい匂いがする。

「こんなところにいるかな……」

 不安を吐露すると、彼が振り返った。あの優し気な目が私を射抜く。

「子どもってかくれんぼ好きでしょ? こういうところに入り込んでたりするんですよ」

 その言葉に背中を押され、私は頷く。すると、どこからか泣き声が聞こえてきた。

「……エミリアちゃん?」

 ポツリとその名を呟くと、風に乗って私の名前が聞こえてきた。

「え、エミリアちゃん!」

 泣き声の方に走っていく。そして、レンガの山に隠れるようにうずくまる、見慣れた姿があった。

「ゴユ゛ギ~~! うわぁああん!!」

 私に気づいたエミリアちゃんが飛びついてきた。顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。私はハンカチを取り出して、エミリアちゃんの顔を拭く。

「良かった~~! 大丈夫? けがはない?」

 エミリアちゃんは私の言葉に頷く。見た限り、どこにも異常はなさそうだ。私は水曜に向かってエゴールの名を呼ぶ。

『コユキ様、どうしましたか!』
「エミリアちゃん、見つかったよ!」
「うわぁああん!! エ゛ゴール゛!!」
『エミリア様ーー! すぐに向かいます!』

 私はぎゅっとエミリアちゃんを抱きしめる。少しだけ高い体温を感じて、私はほっと胸を撫でおろす。見つかって本当に良かった。

「あ、ありがとうございます! 無事に……」

 見つけることができました。そう続けたかったけれど、振り返ったとき、彼の姿はどこにもなかった。

「……あれ?」
「コユキ、どうしたの?」
「エミリアちゃん、私と一緒に来てた人、どこに行ったか見なかった?」
「ううん。コユキ、一人できたでしょ?」

 まるで最初からいなかったように、忽然と姿を消している。何だか背筋が冷たくなっていく。

(もしかして、幽霊……?)

 怖くなってブルブル震えている内に、エゴールが文字通り飛んできた。そして、エミリアちゃんに抱き着く。

「エミリア様!」
「エゴール!」

 二人は再開の喜びを分かち合ったと思ったら、エゴールは「エミリア様ときたら!」と大きな声を出す。

「我々のそばから離れないでくださいと言ったでしょう! 言いつけを守らないからこういうことになるんですよ!」
「ごめんなさいー!」

 エミリアちゃんはとても素直に謝る。ご飯の時もこう素直だったらいいのに……私は二人の様子を見ながらそんな事を考えてしまう。
 しかし、エゴールの怒りはとどまることを知らない。エミリアちゃんはどんどんしょんぼりと肩を落としていく。