自宅に戻った俺は、裏手の祠にいた。

 水燐竜王(すいりんりゅうおう)と話すためだ。

「学校生活は順調みたいだね」

 いつも通りの爽やかな笑みを浮かべる水燐竜王。

「ああ、レベル1000の能力のおかげで、前みたいに馬鹿にされることがなくなった。お前のおかげだよ、水燐竜王」

 ……って、いちいち水燐竜王って呼びかけるのも仰々しいな。

「ん、どうしたの?」
「なあ、『水燐竜王』って称号みたいなものだろ? お前には本名はないのか?」
「本名……」

 水燐竜王がうなった。

「あったかなぁ……もしかしたら、生まれたときにはあったのかもしれない」

 記憶をたどっているらしい。

 何万年か、ひょっとしたら何億年か──ものすごく長い時間を生きているなら、記憶をさかのぼるのも大変なんだろう。

「うーん、思い出せないや」

 肩をすくめる水燐竜王。

「じゃあ、そうだな……お前のことを『リン』って呼んでもいいか?」
「リン?」
「水燐竜王の『リン』だ」
「あははは、単純なネーミングだね」
「……悪かったな」
「いや、けなしてるわけじゃないよ」

 言いながら、水燐竜王はゲラゲラと笑っている。
 よほど笑いのツボに入ったんだろうか。

「うん、いいね。なんだか人間の友達同士であだ名をつけてるみたいだ。気に入った」

 と、何度もうなずいている。

「僕のことはこれから『リン』って呼んでよ」
「じゃあ、あらためて──俺に力を授けてくれて、ありがとう。リン」

 俺は水燐竜王──リンに微笑んだ。

「どういたしまして」

 笑みを返すリン。

「うん、やっぱりいいね。リンって呼ばれると、なんだかすごく嬉しくなる」

 気に入ってくれたんなら、よかった。

「レベルに関しては、礼を言われるほどのことじゃないよ。祠をいつも綺麗にしてくれている君に対して、ささやかなプレゼントをしただけさ」

 リンが言った。

「ちょっとレベルを上げすぎちゃったけど」
「はは、まあな」

 本当はレベル100にしてもらうはずが、一桁違ったんだもんな。

 たぶんレベル100でも十分に活躍できただろう。
 だが、レベル1000になったことで俺の力は、あまりにもけた外れになってしまったらしい。
「コントロールを誤れば、大きな事故を起こしかねない。力を振るう際には、細心の注意をしないと、な」
「──そういう人間に力を渡してよかったよ」

 リンが笑う。

「使いようによっては一国を支配するくらいは簡単にできるだろうからね、君の力は」
「さすがにそれは無理だろ」
「竜王の力だよ? 人間じゃ国レベルでも止められないさ」

 リンが笑顔のまま、目を爛々と輝かせた。

 ぞくっ……!

 すさまじいプレッシャーが押し寄せてくる。

 こいつ──。
 俺は、戦慄する。

 外見は爽やか美少年でも、中身は神や悪魔に匹敵する超越者なのだと思い知らされた気分だった……。



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