今日の授業はダンジョン探索の演習だった。

 冒険者の仕事──『クエスト』にはいくつかの種類がある。

 モンスターの『討伐』。
 遺跡やダンジョンなどの『探索』。
 素材などの『採集』。
 貴族や富豪などの『護衛』。

 それらの基本的な依頼以外に、最近は、上級冒険者だけが請け負う『幻獣討伐』という依頼がある。

 で、今回の演習は基本クエストの一つである『探索』クエストの訓練というわけだ。
 いくらレベル1000になったとはいえ、探索自体は初めてである。

「気を抜かずにやりとげないとな……油断せずにいこう」

 俺は自分自身に言い聞かせた。



 冒険者学校第22分校の裏手に、巨大なダンジョンがある。
 なんでも神や悪魔、古竜、巨人たちが争っていた神話の時代にできたものらしい。

 ダンジョンは全部で何百階層もあるらしく、そのうちの二十階層くらいまでは冒険者学校の管理下にあり、今回みたいな演習に利用しているんだとか。

 演習は五人一組のパーティを組み、制限時間内に第三階層まで行って戻ってくる──というものだった。

 俺たちのパーティの順番が来て、ダンジョンに入る。

 制限時間は一時間である。
 道に迷ったり、罠やモンスターで手間取らなければ、普通に間に合う時間だが──逆に言えば、どこかで手間取ると一気に時間が厳しくなる、とも言えた。

「なんとか制限時間内に突破したいね、レオンさん」

 ダンジョンを進みながら、マナが話しかけてくる。
 彼女と同じパーティになったのだ。

「ああ、成功か失敗かで評価点がかなり変わるんだっけ?」
「そ。評価点はそのまま個人の評価として扱われて、在学中でも高い評価点を得た人はどんどん上位の冒険者ギルドに引き抜かれていくのよね……逆に、点が低いと全然声がかからないの」

 なかなかシビアな世界である。

「がんばらないと、な」
「だね」

 俺の言葉にうなずくマナ。

 探索任務だけあって、彼女は普段の制服ではなく軽装の革鎧姿である。
 俺の方は普段着だった。

 まあ、その……金がなくて革鎧も買えないのだ。

「おいおい、そんな格好で探索任務をやるつもりかよ? これは遊びじゃないんだぞ、オッサン」

 同じ組の男子生徒が俺をにらんだ。

 名前はマット。
 ジェイルとよくつるんでいる一人で、俺のような中年組を露骨に嫌っている。

「もう。そんな言い方はないでしょ。仲良くしようよ」

 マナがとりなしてくれた。
 やっぱり、いい子だ。

「へっ、こんなオッサンとなんで仲良くしなきゃいけねーんだよ。それよりマナ、この後で俺とつきあわねー? へへ」
「絶対、やだ!」

 マットの誘いに、マナはきっぱりと言った。
 彼から遠ざかるように、俺の側に寄る。

「なんだよ、俺よりそのオッサンがいいっていうんじゃないだろうな?」
「レオンさんはあなたみたいに乱暴じゃないし紳士だよ、きっと」
「なんだと……!」

 マットが怒りの表情を浮かべた、そのときだった。

 ぐるるるるる……!

 前方からうなり声が聞こえる。

 次の瞬間、俺たちの前に巨大な影が現れた。

「リザードマン!」

 マナが叫んだ。

 リザードマン──一言でいえば、トカゲ人間のモンスターだ。
 身長は5メートルほど。
 その体格に応じてパワーもあり、正面から戦うには分が悪い相手だった。

「全員、散開しろ! 囲んで倒すぞ!」

 マットが叫ぶ。

 ぐおおおおんっ。

 リザードマンが吠えて、剣を振り回した。

「うあああっ……!」

 生徒の一人が、武器を砕かれて吹っ飛ばされる。

 さらに剣を振り回すリザードマンに、他の生徒たちが後退する。
 近接戦闘じゃ勝負にならない。

「──いや。それくらいの相手の方がいいな。ちょっと試させてもらうか」

 俺は構わず前に出た。

「レベル1000の近接戦闘能力を──」

 ぐるる……。

 リザードマンが俺に近づいてくる。
 手にした剣を振りかぶる。

「ん? あれ?」

 その動作が、やけにゆっくり見えた。

 いや、違う。

 俺の感覚が──反応反射視力筋力、その他すべてが。
 圧倒的に、加速している。

 これがレベル1000の身体能力の一端なのか。

「いける──」

 自信が湧き上がる。
 俺は無造作に地を蹴った。

 ごがあっ!

 拳を一撃。

 リザードマンの腹部が砲撃を受けたようにへこみ、弾ける。

 ず……んっ。

 そのまま、リザードマンは倒れ伏した。

「なんだ、弱いな……」

 思った以上に楽勝だった。



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