――生徒たちはいったん学内で待機ということになった。

 学外の状況が詳しく分かるまで、外に出るのは禁止ということだ。

 噂話レベルではいくつもの情報が入ってきている。

 突然ドラゴンの大群が現れ、各国を急襲しているとか。
 それに対抗すべく、各国も精鋭の戦士、魔法使いたちが迎撃に向かっているとか。
 ドラゴン軍団を指揮するのは古代の竜王だとか。
 あるいは魔王が復活し、ドラゴンたちを操っているとか。
 あるいは、これはとある大魔法使いの召喚魔法だとか。

 とにかく出所不明、真偽も不明のうわさが飛び交っている。

「なんか……突然、大変なことになっちゃったね」

 マナが俺の隣で言った。

 現在、俺たちは試合場がある会場で思い思いの場所にいる。
 俺はマナやランディと一緒だった。
 前回の演習でパーティを組んだ二人組の女の子――ローズとメルも後から合流し、この五人で固まっている。

「あたし、怖いなぁ……レオンさん、いざとなったらあたしを守ってよね」
「私も怖いです。レオンさぁん……」

 二人は左右から俺に引っ付き、甘えてくる。

「むむむ」

 マナがなぜかムッとした顔をしていた。

「ふふ、モテモテだね、レオンは」

 ランディがくすりと笑った。

「そ、そういうわけじゃ……」
「ははは、照れてるのかい? 年の割には可愛いところがあるんだね」
「年上に向かって可愛いとか言うな」
「ごめんごめん」

 謝るランディ。

「それはそうと――」

 俺は周囲を見回した。

「とにかく、この辺りの状況を知りたいよな……」

 思わずため息が漏れる。
 それから、ハッと気づく。

「そうだ、遠くの様子を見ることができるスキルがあるかも」

 調べてみたところ、この状況にぴったりのスキルがあった。

【千里眼】。
 視力だけじゃなく知覚自体を何百倍、何千倍にも増大させるスキルだ。
 さっそく使ってみる。

「あれは――」

 ドラゴンの大群が空中で乱舞していた。
 眼下には都市部がある。

 ここから最寄りの商業都市だ。

 ごうっ!

 ドラゴンたちがいっせいに吐き出したブレスにより、建物が焼かれていく。
 空中からの爆撃である。

 数百人の魔法使い――おそらく国から派遣された魔法戦団だろう――がいっせいに魔法を撃って、これを迎撃する。

 無数の光が飛び交う、激しい爆撃戦だった。

 すでに人間たちとドラゴン軍団の戦いが――戦争が、始まっているのか。

 俺はごくりと息を飲んだ。



 ……やがてドラゴンたちは去って行った。

 町の被害はひどいものだ。

 どうやら人々は前もって避難したらしく、人死には出ていないか、ほとんどないようだ。

 それでも――大惨事である。

「くそ、なんだよこれ……」

 まさに災害だった。
 黙って見ているだけなんて、できない。

「俺も何かやらなきゃ――」

 自然と拳を握り締めていた。
 握り締めた拳が震えていた。

 胸の奥から熱い衝動が湧き上がる。

 戦わなきゃ。

 俺には常人を超える力があるんだから。

 戦いたい。

「戦ってやる――!」
「えっ、一人で行くなんて危ないよ!」

 マナが叫んだ。

「けど、俺は――」

 言い返そうとしたそのときだった。

「レオンさん、マナさん、ランディさん、ここにいたんですね! 学園長がお呼びです」

 一人の女子生徒が駆け寄ってきた。

「学園長が?」
「お急ぎください。今回の事態に関することのようです」

 と、連絡係らしいその生徒が促す。

「――分かった」

 どういうことだろう?
 怪訝に思いつつも、俺たち三人はローズやメルと別れ、連れ立って学長室に向かった。
 



「おおよその事態は察しがついていると思う」

 学長室に着くなり、学園長からそう言われた。

 室内には俺たち三人の他に、二人の生徒がいた。

 炎のように赤い髪をした勝気そうな少年。
 青い髪をツインテールにした美少女。

『学園最強』のヴァーミリオンと『女帝』クーデリアだ。
 どうやら、集められたのは俺たち五名らしい。

「現在、各ギルドから上級冒険者が派遣され、いくつかのチームに分かれてドラゴンの迎撃にあたっている。が、人手が足りない状態だ。そこで、我が学園からも成績上位の生徒を派遣することになった」

 と、学園長。

「学内トーナメントや今までの成績から見ると、君たち五人ならドラゴンにも対抗できると踏んだ。上級冒険者のチームに加わってくれないか」
「俺たちがドラゴン討伐を――」
「もちろん、君たちはまだ学生だから支援が主な役目だ。もっとも危険な役割は、経験豊富な上級冒険者たちが担う」

 学園長が俺たちを見回す。

「ただ、こうしている間にもドラゴンたちによる被害は増え続けている。手をこまねいて見ていることはできん」
「分かりました。行きます」

 俺は即決した。

「さすが、レオンくんだね。そうこなくちゃ」

 ランディが嬉しそうだ。

「もちろん、俺も行きますよ。学園長」
「あたしもです」

 マナが言った。
 その声が震えている。

 たぶん、本当は不安で怖いんだろうな。

「大丈夫。レオンさんと一緒なら――」

 マナがこっちを見た。
 うなずく俺。
 と、さらに、

「はん、俺様の足を引っ張るなよ」
「ふん、あんたたちと味方になるとはね」

 ヴァーミリオンもクーデリアも尊大な感じだった。
 俺やマナに完敗したよね、君たち……。

「ははは、これが現時点での学園トップ5だろうね」

 ランディは楽しそうだ。



 そして――俺たち五人はドラゴン討伐戦へと挑む。