冴えないおっさん、竜王のうっかりミスでレベル1000になり、冒険者学校を成り上がり無双

 三回戦以降も、俺やマナの快進撃は続いた。

 とにかく圧勝に次ぐ圧勝。
 瞬殺に次ぐ瞬殺。

 俺たちはあっという間に準決勝進出を決めた。
 レベル1000の俺やパワーレベリングを重ねたマナは、もはや学内に敵はいないレベルになっていた。

 いや、もしいるとしたら――。

「勝者、ランディ・クルーガー!」

 今、眼前で準決勝進出を決めた彼くらいだろう。

 あいかわらず、ランディの攻撃は正体不明だ。
 試合が始まったかと思うと、次の瞬間には対戦相手が倒れている。

 単純なパワーやスピードとは異なる攻撃のようだが……。
 その正体は、未だ見切れなかった。



「いよいよ決戦だね」

 観客席にいる俺とマナの元に、ランディがにっこり笑顔で歩いてきた。

「準決勝進出おめでとう」
「ありがとう。君もね」

 俺の言葉に爽やかな笑顔を返すランディ。

「楽しみだよ。俺と君……どちらが上か。熱い勝負をしよう」

 と、ランディが手を差し出す。

「ああ、お互い頑張ろう」

 その手を握り返す俺。

 ――どくんっ。

 鼓動が、高鳴る。

「なんだ……?」

 ランディに触れていると、俺の中の何かが熱く脈を打つような感覚があった。

 一体、なんだろう――?



「あれがレオン・ブルーマリンか……」
「学内ランキング一桁を五人撃破したんだってよ……」
「学園最強のヴァーミリオンにも圧勝だったよな……」
「ちょっと前までは、ただのオッサンだったよな……いつの間にあんな強く……」
「素敵……おじさま……」

 学内を歩くたびに、さまざまな生徒が俺を見て噂を立てる。
 中には女子のうっとりした声も混じっていた。

 ちょっと前までなら考えられない光景が、今の俺には日常になっていた。
 学内上位の生徒にとっては、これが当たり前の光景なんだろうか。

 いわゆる『勝ち組』の連中にとっては――。
 人生で一度もそんな境遇になったことがない俺には、分からない。

 とりあえず、今の状況は悪くない心境だ。

 居心地もすごくいい。

「あ、あ、あの、これ、よかったら読んでくださいっ」

 いきなり現れた女子生徒から手紙を渡された。

「えっと、君は……?」
「読んでくださいねっ」

 言うなり、彼女はすごい勢いで走り去っていく。
 さらに、

「あ、それじゃ私のも読んでくださいっ」
「ずるい、あたしのもっ」

 何人もの女子生徒が続けざまに寄ってきては、俺に手紙を渡す。
 そして全員が走り去っていった。

 俺の手には合計で七通もの手紙……まあ、いわゆるラブレター的なものじゃないだろうか。

 まだ読んでないけど、たぶん。

「この俺がモテ期突入とはな……」

 思わず苦笑してしまう。



 ――どくんっ!



 ふいに、俺の胸の中で何かが激しく脈を打つ。

 心臓が、苦しい。
 体の内側が熱く燃え盛る。

「う……ぐ……」

 俺はその場に膝をついた。

「レオンさん!?」
「ちょっと、どうしたんですか!」

 周囲の生徒たちが集まってきた。

「ち、ちょっと気分が……」

 俺は苦笑しながら、みんなに言った。

 どくん、どくんどくんどくんどくん……っ。

 心臓の鼓動が早鐘を打つ。
 どんどんと脈動が早くなっていく。

 このまま心臓が爆発してしまうんじゃないかという不安感。

 と、そのときだった。



 ごごごごごごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!



 空が、大地が、激しく震えた。

「なんだ……!?」

 反射的に窓の外に目を向ける。
 そこにある光景を見て、俺は呆然と目を見開いた。

「こ、これは――」

 空を覆い尽くすほどの、無数の飛行生物。

「まさか……」

 俺は乾いた声でうめいた。

 あれは全部――ドラゴンだ。

 ドラゴンの、大量発生。

 もし仮にあれらが全部人間の町に降りてきたら、国単位で壊滅するだろう。
 それほどの大群だった。

 あまりにも突然の、ドラゴンの群れの出現に、頭がついていかない。

 なんだよ。
 なんなんだよ、これは――?

「うわー、派手に現れたね」

 のんきな声とともにランディが歩いてきた。

 大物というか、肝が据わっているというか、ランディは全然ビビってないようだった。

「大丈夫かい、レオン」
「えっ、あ、ああ……」

 気が付けば、胸の鼓動は徐々にゆっくりと落ち着いてくる。

「何が起きたのかは分からないけど、とりあえず校舎を出た方がいいね。もしドラゴンが校舎を襲ったら……最悪、生き埋めだ」
「……そうだな」

 胸の鼓動はだいぶ落ち着いてきた。
 なんとか動けそうだ。

「あ、その前にマナを探していいか? 心配だ」
「レオンさーん!」

 言ったとたんに、マナが走ってきた。

「じゃあ、三人で降りよう。他の生徒たちも避難を始めているよ」
「分かった」

 俺たちは他の生徒たちに交じり、一階まで降りる。

 それから校舎の外に出た。

 あらためて空を見上げると、一面にドラゴンの群れ、群れ、群れ――。

 これから、一体何が起ころうとしているんだ――?

 俺は戦慄とともにその光景を見上げていた。