三日後――。
 今日は学内トーナメント二回戦が行われる日だ。

「がんばろうな、マナ」
「うん。今日の相手もランキング上位の人だけど、せっかくレオンさんに強くしてもらったもんね。絶対勝つよっ」

 マナは気合十分のようだ。

「その意気だ」

 俺たちは互いの拳を合わせた。



 まずは俺の試合。

「いくわよ、オッサン!」

 魔法使いタイプの女子生徒が杖を振るう。

 確か学内ランキング30位くらいだったはずだ。
 とはいえ、その威圧感はヴァーミリオンには遠く及ばない。

「【ファイア】!」
「【ブリーズ】!」

 放たれた火炎を、俺の魔法が凍りつかせた。

 俺自身の力を使いこなす練習として、今回は魔法縛りで行ってみよう。

 つまり、魔法だけを使って勝つ――。
 俺は彼女を見据える。

「あ、あたしの魔法をこんなにあっさり……」

 攻撃を相殺された彼女は、かなり驚いているようだ。

「くっ……【サンダー】!」
「【プロテクション】!」

 続いて放たれた雷撃魔法も、俺の防御呪文があっさりと弾き返す。

「オッサンのくせに……ぐぬぬ」

 歯がみする彼女。

 ……別にオッサンでもいいじゃないか。
 俺は内心でぼやいた。

 なんか、アラサーってだけで毛嫌いされてないか?
 そりゃ、この学園の生徒はほとんどが十代の若者だけど。

「中々やるわね……【ウィンド】!」
「【アブソーブ】!」

 風魔法は吸収魔法ですべて吸いこんで消去。

「【ソニックブーム】!」
「【リアクト】!」

 さらに衝撃魔法は反射魔法で跳ね返す。

「ひっ!? ひあぁぁぁぁぁぁっ……!」

 あ、跳ね返した衝撃波がそのまま対戦相手を吹っ飛ばしてしまった。

「攻撃するつもりはなかったんだが……」

 一発でKOだ。
 俺は彼女に走り寄った。

「大丈夫だったか?」
「うう……大丈夫……あなた、強すぎぃ……」

 彼女は目を回していた。

「ほら、立てるか」

 手を差し出す。

「……ふん」

 口を尖らせつつ、彼女は素直に俺の手を取った。
 力なく立ち上がる。

「【ヒール】」

 俺は回復魔法で彼女を癒やした。

「あ、あれ、楽になった……?」
「ダメージは消しておいた。悪かったな。あんな風に君を吹っ飛ばすことになるのは予想外だった」
「…………」

 彼女は俺をしばらく見つめ、

「……ありがと」

 ぼそりと礼を言った。

「勝者、レオン・ブルーマリン!」

 それを待っていたかのように、審判が宣言する。

 特に苦戦することもなく圧勝だった。

 いくつかの防御呪文を試せたことが収穫か。
 相手との力の差がありすぎて、単なる作業じみた戦いだった――。



 三十分後、今度はマナの試合だった。

「クーデリア先輩を倒したからっていい気になるなよ。剣士なんて間合いに入れなきゃ怖くもなんともねーよ!」

 魔法使いタイプの男子生徒が叫んだ。

「くらえ! 【魔弾連射】!」

 光弾を連続で二十発ほど撃ってくる。
 一発一発の威力は大したことがないが、とにかく連射性に優れた魔法だ。

 迫る光弾群を、

「あっそ。でも、それくらいの弾幕じゃ、あたしは止められない――」

 マナはすべて見切り、あっさりと避けてみせた。

「スキル【加速】」

 そのまま突進して距離を詰める。

「ひ、ひいっ! 【魔弾】――」
「遅い」

 二度目の連射魔法が発動するより早く、マナの剣が対戦相手の喉元に突きつけられた。

「ま、参った……」

 こちらも瞬殺だ。

 だんだん、マナに風格が出てきたな。
 本当に、強くなった――。



「やったー! 見ててくれた、レオンさん!」

 試合が終わるなり、マナが駆け寄ってきた。

「ああ。すごかったぞ」
「えへへ、学内トーナメントが始まってから、一日一にが楽しいの。こんなに毎日が充実してるなんて、学園に入ってから初めて」

 マナがにっこりと俺を見つめた。

「全部、レオンさんのおかげだよ。本当にありがとう」
「礼なんていいって。それに俺は後押しをしただけで、あれは本来マナの力だからな。ただ成長を早めただけだ」

 説明する俺。

「へえ、仲いいんだね、君たち」

 と、銀髪に赤い目をした美少年が歩み寄ってきた。
 ランディだ。

「俺はこの後に試合があるんだ。よかったら見ていってよ」
「そうだな。準決勝で当たるんだし、研究させてもらうか」
「怖いなぁ。お手柔らかに頼むよ」
「はは、がんばれよ。ランディ」
「おーけー」

 気軽に返事をして、ランディは試合場へと歩いていく。
 完全にリラックスしていた。



 そしてランディの試合――。

「が、がは……っ」

 その生徒は地面に這いつくばったまま、起き上がれないようだ。

 一瞬――だった。
 ランディの繰り出した攻撃によって、対戦相手は倒れたのだ。

 ただ、その攻撃が問題だった。

「なんだ、今のは……!?」

 俺は表情を険しくする。

 何も、見えなかった。
 ランディの仕掛けた攻撃が、何も。

 ただ、おそらく――単純なパワーやスピードじゃない。
 もっと『別種の何か』が対戦相手を打ちのめしたのだ。

「もし俺があの対戦相手だったら――今の攻撃を防げたんだろうか……」

 戦慄する。

「レオンさん……?」
「あいつ、強いぞ」

 こちらを見たマナに、俺は言った。

「準決勝、なかなかハードな試合になるかもな」



 ランディ・クルーガー。

 おそらくは――。
 この力を授かってから初めて出会う、強敵だ。