ランディとジェイルがにらみ合った状態のまま、十分が経過した。
完全な膠着状態だ。
「なんだ、あいつの技……?」
俺はランディの『変化』に気づいた。
うっすらとだが全身からオーラが立ち上っているように見える。
スキルの一種だろうか?
「ちっ、ノーガードかよ! 舐めるな!」
ジェイルが突進から一撃を見舞った。
がきっ。
その斬撃を、ランディは平然と受け止める。
「なっ……!?」
驚くジェイル。
その刃はランディが掲げた手のひらに止められていた。
肉体を鋼鉄のように硬くするスキル、というのがあるらしいから、奴はそれを使ったんだろうか。
「膠着状態になって助かったよ。おかげで『準備』ができた」
「準備……?」
「俺が『力』を発揮するには、一定時間の溜めが必要なのさ」
ニッと笑うランディ。
「十分にチャージできたし、ここからは本気の俺を――その一端を見せてあげるよ」
「ちっ……!」
後退しようとするジェイルに、
「一手遅れたね」
ランディが追撃する。
速い――。
異常な速度で、ランディはジェイルをぴったりと追走する。
「こ、このぉっ!」
逃げきれないと悟ったのか、ジェイルが攻撃を繰り出した。
剣を、魔法を、ランディはいずれも素手で受け止める。
「て、てめぇ……!」
「人間は、攻撃直後に必ず硬直時間が生じる。そこを狙えば、どんな達人でも対応できない」
拳を振るうランディ。
その拳もうっすらとオーラに包まれていた。
「詰みだ、ジェイル」
がすっ。
みぞおちに一撃を受けてジェイルはダウンした。
「し、勝者――ランディ・クルーガー!」
一瞬遅れて審判が彼の勝利をコールする。
鮮やかな勝利だった。
「やあ、見てくれたかい、レオン」
試合が終わるとランディが俺とマナのところにやってきた。
にこやかで、爽やかな笑顔である。
「ランディって強いんだな……」
「絶対王者ってわけじゃないけどね」
笑うランディ。
「ま、適当にやって、そこそこ勝って、ほどほどに負ける……って成績かな」
「適当にやって、か」
俺はランディを見つめた。
「じゃあ、本気でやったらどうなるんだ?」
それは――ただの興味本位の質問。
だが、その質問はどうやらランディの中の何かに触れたらしかった。
「……へえ」
ニヤリと笑うランディ。
「俺たちはお互いに勝ちあがると準決勝で戦うみたいだ。そこで君の質問の答えを見せよう」
「お互いにそこまで勝ち上がれたらな」
「勝ち上がるさ」
ランディがあっけらかんと言った。
「君がここの生徒に負けるはずがない。レベルが違いすぎるからね。万が一とかまぐれでの負けとか、そういうものが生じるような次元じゃないよ」
「随分と高く買ってくれてるんだな」
「君の力を見れば、誰もがそう感じるさ」
微笑むランディ。
「そして、俺もここの生徒に負けるはずがない。本気を出せばね」
「適当にやってるんじゃなかったのか?」
「普段はそうさ。けど、今は君がいる」
ランディが俺を見つめた。
その瞳に鋭い光が宿る。
こいつ、最初に会ったときとは、まるで雰囲気が違う――。
俺はごくりと息を飲んだ。
気さくで話しやすい奴って印象から、まるで今にも襲い掛かってきそうな獣のような雰囲気へと変わっている。
「君と戦ってみたくなったのさ。だから、確実に戦えるよう、準決勝まで本気で勝ち上がる」
言って、ランディは背を向けた。
「じゃあね。準決勝で会おう」
「……なんか、あたしのことはまったく眼中にない感じだったね」
マナがつぶやいた。
「そういえば、会話の蚊帳の外だったな……悪い」
「ううん、レオンさんは悪くないよ。っていうか、別に怒ってるわけじゃない」
と、マナ。
「ランディくん、そもそもあたしの存在に気づいてすらいなかったみたい」
「えっ」
「レオンさんしか見てないんだねー。モテモテだね」
「男にモテてもな……」
俺は苦笑してしまった。
「じゃあ、あたしからモテたら嬉しい? ねえ、嬉しい?」
無邪気にたずねるマナ。
「えっ」
「あ……ご、ごめんなさい。変な冗談言っちゃって」
言って、マナの顔がみるみる赤くなった。
自分で冗談を言って照れたらしい。
初心なところがあるんだな、マナって。
可愛らしいもんだ。
なんとなく、すごく年下の妹を愛でるような気持ちで、俺はマナを見つめたのだった。
その後、試合をいくつか観戦した後、俺はマナと別れた。
これから自由時間だし、どうしようかな……。
考えながら校舎内を歩いていると、
「くそっ、この俺が一回戦で負けるなんて……!」
校舎裏から怒声が聞こえてきた。
気になって近づくと、そこではジェイルが素振りをしていた。
「くそっ、ちくしょう……っ!」
ランディに負けたことがよほど悔しかったんだろう。
延々と剣を振っている。
……嫌な奴ではあるけど、その熱意は見習うべきところがあるかもしれない。
少なくとも俺だったら、試合に負けた直後にすぐ素振りなんてできない。
ショックで沈むか、気分転換に何か気晴らしをするか……。
「……のぞき見かよ」
と、俺の気配に気づいたのか、ジェイルが振り返った。
「くそっ、どうせ俺を馬鹿にしようと思って来たんだろ」
ジェイルが俺をにらむ。
「馬鹿になんてしない」
俺は首を左右に振った。
「お前は嫌な奴だし、今までさんざん嫌な目にあったし、色々と含むところはあるけど――」
「ふん」
「けど、全力で戦った奴を馬鹿になんてしない。勝っても、負けてもな」
俺は微笑んだ。
「全力で戦ったんだけどなぁ……あーあ」
ジェイルは悔しげに言った。
「まったく歯が立たなかった。お前とやったとき以来だぜ、あんなの」
「強かったな、ランディは」
「お前も気をつけろよ。準決勝までいけば、あいつとの対戦だ」
「なんだ、気遣ってくれるのか?」
「勘違いするんじゃねーよ。お前を倒すのは俺だからだ」
「うわー……これ以上ないくらいベタベタな台詞だな」
さすがに苦笑する俺。
「うるせ」
ジェイルは不機嫌そうに言った。
「言っておくけど、ここが俺の限界じゃねーぞ。俺はまだまだ強くなる」
……こいつにもパワーレベリングをしてやったら、どう思うだろうか。
いや、ジェイルのことだから『お前に強くしてもらうなんて真っ平だ』って断りそうだな。
完全な膠着状態だ。
「なんだ、あいつの技……?」
俺はランディの『変化』に気づいた。
うっすらとだが全身からオーラが立ち上っているように見える。
スキルの一種だろうか?
「ちっ、ノーガードかよ! 舐めるな!」
ジェイルが突進から一撃を見舞った。
がきっ。
その斬撃を、ランディは平然と受け止める。
「なっ……!?」
驚くジェイル。
その刃はランディが掲げた手のひらに止められていた。
肉体を鋼鉄のように硬くするスキル、というのがあるらしいから、奴はそれを使ったんだろうか。
「膠着状態になって助かったよ。おかげで『準備』ができた」
「準備……?」
「俺が『力』を発揮するには、一定時間の溜めが必要なのさ」
ニッと笑うランディ。
「十分にチャージできたし、ここからは本気の俺を――その一端を見せてあげるよ」
「ちっ……!」
後退しようとするジェイルに、
「一手遅れたね」
ランディが追撃する。
速い――。
異常な速度で、ランディはジェイルをぴったりと追走する。
「こ、このぉっ!」
逃げきれないと悟ったのか、ジェイルが攻撃を繰り出した。
剣を、魔法を、ランディはいずれも素手で受け止める。
「て、てめぇ……!」
「人間は、攻撃直後に必ず硬直時間が生じる。そこを狙えば、どんな達人でも対応できない」
拳を振るうランディ。
その拳もうっすらとオーラに包まれていた。
「詰みだ、ジェイル」
がすっ。
みぞおちに一撃を受けてジェイルはダウンした。
「し、勝者――ランディ・クルーガー!」
一瞬遅れて審判が彼の勝利をコールする。
鮮やかな勝利だった。
「やあ、見てくれたかい、レオン」
試合が終わるとランディが俺とマナのところにやってきた。
にこやかで、爽やかな笑顔である。
「ランディって強いんだな……」
「絶対王者ってわけじゃないけどね」
笑うランディ。
「ま、適当にやって、そこそこ勝って、ほどほどに負ける……って成績かな」
「適当にやって、か」
俺はランディを見つめた。
「じゃあ、本気でやったらどうなるんだ?」
それは――ただの興味本位の質問。
だが、その質問はどうやらランディの中の何かに触れたらしかった。
「……へえ」
ニヤリと笑うランディ。
「俺たちはお互いに勝ちあがると準決勝で戦うみたいだ。そこで君の質問の答えを見せよう」
「お互いにそこまで勝ち上がれたらな」
「勝ち上がるさ」
ランディがあっけらかんと言った。
「君がここの生徒に負けるはずがない。レベルが違いすぎるからね。万が一とかまぐれでの負けとか、そういうものが生じるような次元じゃないよ」
「随分と高く買ってくれてるんだな」
「君の力を見れば、誰もがそう感じるさ」
微笑むランディ。
「そして、俺もここの生徒に負けるはずがない。本気を出せばね」
「適当にやってるんじゃなかったのか?」
「普段はそうさ。けど、今は君がいる」
ランディが俺を見つめた。
その瞳に鋭い光が宿る。
こいつ、最初に会ったときとは、まるで雰囲気が違う――。
俺はごくりと息を飲んだ。
気さくで話しやすい奴って印象から、まるで今にも襲い掛かってきそうな獣のような雰囲気へと変わっている。
「君と戦ってみたくなったのさ。だから、確実に戦えるよう、準決勝まで本気で勝ち上がる」
言って、ランディは背を向けた。
「じゃあね。準決勝で会おう」
「……なんか、あたしのことはまったく眼中にない感じだったね」
マナがつぶやいた。
「そういえば、会話の蚊帳の外だったな……悪い」
「ううん、レオンさんは悪くないよ。っていうか、別に怒ってるわけじゃない」
と、マナ。
「ランディくん、そもそもあたしの存在に気づいてすらいなかったみたい」
「えっ」
「レオンさんしか見てないんだねー。モテモテだね」
「男にモテてもな……」
俺は苦笑してしまった。
「じゃあ、あたしからモテたら嬉しい? ねえ、嬉しい?」
無邪気にたずねるマナ。
「えっ」
「あ……ご、ごめんなさい。変な冗談言っちゃって」
言って、マナの顔がみるみる赤くなった。
自分で冗談を言って照れたらしい。
初心なところがあるんだな、マナって。
可愛らしいもんだ。
なんとなく、すごく年下の妹を愛でるような気持ちで、俺はマナを見つめたのだった。
その後、試合をいくつか観戦した後、俺はマナと別れた。
これから自由時間だし、どうしようかな……。
考えながら校舎内を歩いていると、
「くそっ、この俺が一回戦で負けるなんて……!」
校舎裏から怒声が聞こえてきた。
気になって近づくと、そこではジェイルが素振りをしていた。
「くそっ、ちくしょう……っ!」
ランディに負けたことがよほど悔しかったんだろう。
延々と剣を振っている。
……嫌な奴ではあるけど、その熱意は見習うべきところがあるかもしれない。
少なくとも俺だったら、試合に負けた直後にすぐ素振りなんてできない。
ショックで沈むか、気分転換に何か気晴らしをするか……。
「……のぞき見かよ」
と、俺の気配に気づいたのか、ジェイルが振り返った。
「くそっ、どうせ俺を馬鹿にしようと思って来たんだろ」
ジェイルが俺をにらむ。
「馬鹿になんてしない」
俺は首を左右に振った。
「お前は嫌な奴だし、今までさんざん嫌な目にあったし、色々と含むところはあるけど――」
「ふん」
「けど、全力で戦った奴を馬鹿になんてしない。勝っても、負けてもな」
俺は微笑んだ。
「全力で戦ったんだけどなぁ……あーあ」
ジェイルは悔しげに言った。
「まったく歯が立たなかった。お前とやったとき以来だぜ、あんなの」
「強かったな、ランディは」
「お前も気をつけろよ。準決勝までいけば、あいつとの対戦だ」
「なんだ、気遣ってくれるのか?」
「勘違いするんじゃねーよ。お前を倒すのは俺だからだ」
「うわー……これ以上ないくらいベタベタな台詞だな」
さすがに苦笑する俺。
「うるせ」
ジェイルは不機嫌そうに言った。
「言っておくけど、ここが俺の限界じゃねーぞ。俺はまだまだ強くなる」
……こいつにもパワーレベリングをしてやったら、どう思うだろうか。
いや、ジェイルのことだから『お前に強くしてもらうなんて真っ平だ』って断りそうだな。