一撃――。

 俺の繰り出した拳がヴァーミリオンのみぞおちを捕らえ、決着はついた。

 結局ワンパンKOである。

 結果からいえば圧勝だったな……。

 周囲はシンと静まり返っていた。

「ヴァーミリオンさんが負けた……!?」
「不敗神話が終わったのか……」
「レオンさん、ここまで強かったのか……」

 生徒たちがどよめきだす。

「おいおいおい、ヴァーミリオンが負けただと!?」
「何者だ、あのオッサン!?」
「レオン・ブルーマリンか……ヴァーミリオンを見に来たけど、とんでもない逸材を発見しちまったぞ!」
「おい、急いで上に連絡だ! うちの獲得候補リストにレオンを入れろ!」

 スカウトたちも俄然色めきだっている。

「おい、大丈夫か」

 俺はヴァーミリオンの元に歩み寄り、助け起こした。

「うう……」

 ふらつきながら立ち上がるヴァーミリオン。

「そうか……負けたのか、俺は……」

 俺を見て、呆然とした顔になる。

「ナイスファイトだったよ」

 健闘をたたえる俺。

 実際、怒涛の連続攻撃は他の生徒たちとは一線を画すレベルだろう。
 さすがは学園最強。

 ただ、俺は竜王の力でレベル1000に引き上げられてるからな。

「……完敗だ」

 ヴァーミリオンが悔しげにうなった。

「世の中にお前みたい奴がいるなんてな……」

 相当ショックを受けているのか、無言で背を向ける。

「また鍛え直しだ。今はお前が学園最強でいい。だけど、いずれまたその座を取り戻す」

 背を向けたまま、そう告げた。
 闘志は失っていないようだ。

「ああ、受けて立つよ」

 俺は力強くうなずいた。



 試合を終えた俺は、マナを探していた。
 これでお互いに一回戦を突破したわけだし、喜びを分かち合いたい。

 けど、彼女に出会う前に、

「へえ、学内最強を瞬殺とはね」

 一人の少年が話しかけてきた。

 銀髪に赤い目をした美しい少年だ。
 年齢は十七、八歳くらいだろうか。

「君は?」
「俺はランディ・クルーガーだ。よろしくな、スーパールーキー」

 気さくに挨拶するランディ。
 見た目はチャラいが、爽やかで嫌味のない雰囲気だった。

「レオン・ブルーマリンだ。よろしく」
「知ってるさ。ああ、試合を見る前からね」

 ランディがニッと人懐っこく笑う。

「有名人だからね、君は」
「有名?」
「あれ、気づいてなかったのか」

 ランディが驚いた顔をする。

「天然なんだな、意外に」
「天然……」
「ああ、悪く言ったつもりはないんだ。気分を害したなら謝る。この通り」

 いきなり深々と頭を下げるランディ。

「別に怒ったわけじゃないよ」

 俺は苦笑を返した。

「君には色々な人が注目しているよ。今後が楽しみだね」
「注目か……」
「上級冒険者をスカウトしようと有名ギルドがいくつも来ているんだ。君は彼らに獲得候補としてリストアップされただろうね」
「ああ……なんか、そんな声がいくつか聞こえたような」
「これまでは冒険者業界期待のスーパールーキーはヴァーミリオンだったけど、これからはレオンがそう呼ばれるだろうね」
「俺が……」

 期待のスーパールーキー、か。
 なんだかむず痒いような、現実感がないような。

 今までの人生で、他人からそんなレベルの評価を受けたことがないから、不思議な気分だった。

「本当に楽しみだよ。君みたいな強い人は初めて見た。トーナメントでぜひ手合わせしたいね」

 ランディがニッと笑う。

 それから試合場を振り返り、

「おっと……そろそろ俺は試合があるから控室に行くよ。引き留めて悪かったね」
「いや。健闘を祈るよ」
「はは、新学園最強にそう言ってもらえると励みになるよ」

 笑いながら、ランディは去っていった。
 気さくで話しやすい奴だな、という印象だった。



「レオンさん、一回戦突破おめでとう~!」

 マナが入れ替わりでやって来た。

「あれ? さっきの人は知り合い?」
「いや、さっき知り合ったばかりだ」

 答える俺。

「ランディ・クルーガーって言ってた。知ってるか?」
「えっと、確か学内ランキング10位くらいの人じゃないかな」

 マナが言った。

「上位の人は名前だけなら大体知ってるけど……どんな人なのかまでは知らない。あ、女子がランディさんのことを『かっこいい』って騒いでたような気も……」

 まあ、イケメンだからな。

「気さくな感じの奴だったよ。強いんだな、あいつ……」

 と、眼下の試合場でランディの試合が始まろうとしていた。

「お、対戦相手はジェイルか」
「学内ランキング七位だって」
「えっ、あいつそんなに強かったのか!?」

 上位だとは知っていたけど、一桁とは――。

「この間のクエストで一気にランクアップしたみたい。ちなみにあたしも」

 と、マナ。

「すごいな。おめでとう」
「……ありがと。けど、一番ランキングが上がったのはレオンさんだよ?」
「そうなのか?」
「気づいてなかったの!? 21位になったんだよ。前は300位台だからね、確か」

 それはかなりのランクアップだ。

「いや、ランキングってどこで聞けばいいのか知らなくて……」
「もう」

 マナはぷうっと頬を膨らませた。

「学内ランキングなんて生徒にとって一番の関心事じゃない」
「そう……なのか?」

 俺自身はそこまで気にしてなかった。

 レベル1000の力があれば、冒険者としてどうにか食っていけるだろう、って気持ちがあるし。
 ランキングが高かろうと低かろうと、どうにでもなるだろう、ってな。

「将来かぁ……レオンさんは学園の成績よりも、もう将来のことを見据えてるんだね」

 マナが感心したように言った。

「ん? 誰だってそうじゃないのか?」
「そうでもないよ。少なくともあたしは……目の前のことで精いっぱい」

 と、マナ。

「日々の課題をこなして、授業に必死でついていって……レオンさんに強くしてもらったおかげで、最近になってやっと余裕が出てきたくらい」
「そうか……」
「だから、本当に感謝してるの。レオンさんに」

 マナが俺に微笑みかけた。

「見ててね。あたし、絶対に結果を残して見せるから。レオンさんへの恩返しだよ」
「はは……まあ、そう堅苦しく考えるなよ。自分のために戦えばいいさ」

 俺は彼女に微笑み返した。

「……そうだね。あたし自身とレオンさんのために戦うよ」

 言って、マナは試合場を指さした。

「あ、始まるみたい」
「注目の好カードってやつだな」

 俺はランディ対ジェイルの戦いを注視する。

 ジェイルは嫌な奴だし、不愉快な目にも散々遭ってきた。
 けど、この前は一緒にパーティを組んだから、ちょっとした仲間意識が芽生えたのも事実だ。

「なんとなく応援しちゃう気持ちもあるんだよな」
「えっ、あれだけ色々されたのに……」

 マナが驚いたように俺を見つめる。

「やっぱり、レオンさんってお人よし」
「はは、なんか割り切れなくて」
「そこがレオンさんのいいところだと思う」

 マナがにっこりと言った。

「ありがとう……っと、試合に注目しなきゃな」

 試合はすでに始まっている。
 両者は離れた場所で対峙したまま、どちらも動かない。

「仕掛けるタイミングを探っているのか……?」