「この私が一撃で――」
立ち上がったクーデリアは呆然とした顔だった。
「あ、その……大丈夫でしたか?」
「……大丈夫なわけないでしょう」
声をかけたマナにクーデリアはため息をついた。
「私の自信もプライドもまとめて粉々よ。まったく……大したものね」
言って、彼女はマナをにらんだ。
「けど、このままじゃ済まさないわよ。学園の『女帝』の名前はまだまだ譲らない――」
にらんでいるけど、目が笑っているような気がした。
マナを、強者だと認めた目だ。
「じゃあ、またやりましょう」
マナがにっこり笑った。
「あたしも、もっと強くなりますから」
「……これ以上強くなられると、追い付くのが大変なんだけど」
「えっ」
「と、とにかく、次は勝つからねっ」
クーデリアが口を尖らせた。
「……それと、おめでとう。がんばって」
「あ、ありがとうございます!」
最後にエールを送ったクーデリアに、マナは力強くうなずいた。
「レオンさん、あたし勝ったよ~!」
控室に戻ってきたマナが、俺のところまで走り寄ってきた。
「ああ、すごかったな」
「えへへ、最初は緊張したけどね」
マナが照れ笑いをする。
「でも、レオンさんに鍛えてもらった力を素直に信じようって、思って」
「そうか」
「それでレオンさんのことを何度も思い返して……えっと、それで落ち着いて……その」
言いながら、マナが頬を赤らめた。
「ん?」
「あ、ううん。レオンさんにはとにかく感謝だね。本当にありがとう」
「はは、トーナメントはこれからだし、もっともっと勝ち上がろう」
俺はにっこりと言った。
「俺も君に続くよ」
「君に続く、だと? お前の一回戦の相手が誰だか分かってるのか」
不機嫌そうな声がした。
振り返ると、俺をジロリとにらんでいる奴がいる。
「お前は――」
「ヴァーミリオン・ライドル」
炎のように赤い髪をした少年が告げた。
かなり小柄で、マナよりも低い。
150センチそこそこじゃないだろうか。
「お、おい、ヴァーミリオンさんを怒らせるなよ、オッサン……」
「早く謝れって、こっちまでとばっちり食うから」
他の選手たちが騒ぎだした。
「確か……学内ランキング1位なんだよな、お前」
俺はヴァーミリオンを見つめた。
ぼんっ!
そのとたん周囲が爆発した。
ヴァーミリオンが放った火炎魔法だ。
「俺はこの学園に入ってから負けたことがない。お前みたいなオッサンが万が一にでも勝てると思ってるのか、ええ?」
ヴァーミリオンがすごむ。
「トーナメントの成績は就職に影響するんだろ? なら相手が誰であれ勝ち続けるしかないじゃないか。こっちは再就職がかかってるんだ」
言い返す俺。
ぼんっ!
また、周囲が爆発した。
……いちいち部屋を燃やさないでくれ。
感情表現が激しい奴だ。
「俺の炎はすべてを焼き尽くす。火傷したくなければ、今のうちに棄権しておけ」
「控室で火を使うなよ。火元に注意、だ」
俺はヴァーミリオンに警告した。
実際、こんな狭い部屋だと火事が怖いからな。
「なら、今後は試合場だけで使うことにしよう」
悪びれずにうそぶき、ヴァーミリオンは俺に背を向けた。
「先に行っているぞ。ウォームアップもあるからな」
去っていく。
「こ、怖かった……」
彼が控室を出ていくと、とたんに他の選手たちがいっせいに安堵の息を漏らした。
見回せば、全員がビビってたみたいだ。
……そういえば、俺はそういうビビりは全然感じなかったな。
ちょっと前までなら俺もみんなと同じようにビビってただろうけど。
今の俺は――違う。
ほどなくして第七試合の呼び出しを受けた。
「いよいよ出番か……」
「がんばってね、レオンさん……っ」
マナが俺を見つめた。
「あたし、応援してる」
「ありがとう」
言いながら、マナが震えているのに気づいた。
「マナの方が緊張してるな」
「だ、だって! 相手は学園最強なんだよ!」
あれから他の選手にヴァーミリオンの詳しい情報を教えてもらった。
入学以来無敗で、ここ二年以上も学内ランキング1位をキープしているらしい。
まさに学園最強の絶対王者。
すでに上級冒険者に内定しており、各ギルドで取り合いが始まっているという。
まさに冒険者業界の超新星。
「ま、なんとかなるさ」
一方の俺は、自分でもびっくりするくらいリラックスしていた。
相手が誰だろうと負ける気がまったくしない。
「いや、油断しちゃいけないな。全力で当たらないと」
※
そこは、学園から遠く離れた地――。
ごごごごごごごっ……!
地鳴りが響く。
地面に大きな亀裂が走った。
そこから、
びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
猛烈な風が吹き出し、渦巻いた。
それは、天空にまで届く巨大な竜巻となる。
「解けたぞ……封印が!」
竜巻の内部から何かが叫んだ。
巨大なシルエットだ。
全長は100メートル以上あるだろうか。
双眸が赤く燃えていた。
「勇者め……この我を数千年にも渡り封じこめおって……許せん……!」
それは、怒りに燃えていた。
かつて勇者に地底の奥深くへと封印された忌まわしい記憶がよみがえる。
屈辱感が、よみがえる。
そして、それを晴らさんとする強大な憎悪と復讐心が。
「我が眷属よ、在れ!」
声とともに、天空から無数の竜が現れた。
いずれも彼の――『竜王』の眷属だ。
「さあ、ともに行くぞ! 今こそ人間どもの世界を滅ぼすとき――」
立ち上がったクーデリアは呆然とした顔だった。
「あ、その……大丈夫でしたか?」
「……大丈夫なわけないでしょう」
声をかけたマナにクーデリアはため息をついた。
「私の自信もプライドもまとめて粉々よ。まったく……大したものね」
言って、彼女はマナをにらんだ。
「けど、このままじゃ済まさないわよ。学園の『女帝』の名前はまだまだ譲らない――」
にらんでいるけど、目が笑っているような気がした。
マナを、強者だと認めた目だ。
「じゃあ、またやりましょう」
マナがにっこり笑った。
「あたしも、もっと強くなりますから」
「……これ以上強くなられると、追い付くのが大変なんだけど」
「えっ」
「と、とにかく、次は勝つからねっ」
クーデリアが口を尖らせた。
「……それと、おめでとう。がんばって」
「あ、ありがとうございます!」
最後にエールを送ったクーデリアに、マナは力強くうなずいた。
「レオンさん、あたし勝ったよ~!」
控室に戻ってきたマナが、俺のところまで走り寄ってきた。
「ああ、すごかったな」
「えへへ、最初は緊張したけどね」
マナが照れ笑いをする。
「でも、レオンさんに鍛えてもらった力を素直に信じようって、思って」
「そうか」
「それでレオンさんのことを何度も思い返して……えっと、それで落ち着いて……その」
言いながら、マナが頬を赤らめた。
「ん?」
「あ、ううん。レオンさんにはとにかく感謝だね。本当にありがとう」
「はは、トーナメントはこれからだし、もっともっと勝ち上がろう」
俺はにっこりと言った。
「俺も君に続くよ」
「君に続く、だと? お前の一回戦の相手が誰だか分かってるのか」
不機嫌そうな声がした。
振り返ると、俺をジロリとにらんでいる奴がいる。
「お前は――」
「ヴァーミリオン・ライドル」
炎のように赤い髪をした少年が告げた。
かなり小柄で、マナよりも低い。
150センチそこそこじゃないだろうか。
「お、おい、ヴァーミリオンさんを怒らせるなよ、オッサン……」
「早く謝れって、こっちまでとばっちり食うから」
他の選手たちが騒ぎだした。
「確か……学内ランキング1位なんだよな、お前」
俺はヴァーミリオンを見つめた。
ぼんっ!
そのとたん周囲が爆発した。
ヴァーミリオンが放った火炎魔法だ。
「俺はこの学園に入ってから負けたことがない。お前みたいなオッサンが万が一にでも勝てると思ってるのか、ええ?」
ヴァーミリオンがすごむ。
「トーナメントの成績は就職に影響するんだろ? なら相手が誰であれ勝ち続けるしかないじゃないか。こっちは再就職がかかってるんだ」
言い返す俺。
ぼんっ!
また、周囲が爆発した。
……いちいち部屋を燃やさないでくれ。
感情表現が激しい奴だ。
「俺の炎はすべてを焼き尽くす。火傷したくなければ、今のうちに棄権しておけ」
「控室で火を使うなよ。火元に注意、だ」
俺はヴァーミリオンに警告した。
実際、こんな狭い部屋だと火事が怖いからな。
「なら、今後は試合場だけで使うことにしよう」
悪びれずにうそぶき、ヴァーミリオンは俺に背を向けた。
「先に行っているぞ。ウォームアップもあるからな」
去っていく。
「こ、怖かった……」
彼が控室を出ていくと、とたんに他の選手たちがいっせいに安堵の息を漏らした。
見回せば、全員がビビってたみたいだ。
……そういえば、俺はそういうビビりは全然感じなかったな。
ちょっと前までなら俺もみんなと同じようにビビってただろうけど。
今の俺は――違う。
ほどなくして第七試合の呼び出しを受けた。
「いよいよ出番か……」
「がんばってね、レオンさん……っ」
マナが俺を見つめた。
「あたし、応援してる」
「ありがとう」
言いながら、マナが震えているのに気づいた。
「マナの方が緊張してるな」
「だ、だって! 相手は学園最強なんだよ!」
あれから他の選手にヴァーミリオンの詳しい情報を教えてもらった。
入学以来無敗で、ここ二年以上も学内ランキング1位をキープしているらしい。
まさに学園最強の絶対王者。
すでに上級冒険者に内定しており、各ギルドで取り合いが始まっているという。
まさに冒険者業界の超新星。
「ま、なんとかなるさ」
一方の俺は、自分でもびっくりするくらいリラックスしていた。
相手が誰だろうと負ける気がまったくしない。
「いや、油断しちゃいけないな。全力で当たらないと」
※
そこは、学園から遠く離れた地――。
ごごごごごごごっ……!
地鳴りが響く。
地面に大きな亀裂が走った。
そこから、
びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
猛烈な風が吹き出し、渦巻いた。
それは、天空にまで届く巨大な竜巻となる。
「解けたぞ……封印が!」
竜巻の内部から何かが叫んだ。
巨大なシルエットだ。
全長は100メートル以上あるだろうか。
双眸が赤く燃えていた。
「勇者め……この我を数千年にも渡り封じこめおって……許せん……!」
それは、怒りに燃えていた。
かつて勇者に地底の奥深くへと封印された忌まわしい記憶がよみがえる。
屈辱感が、よみがえる。
そして、それを晴らさんとする強大な憎悪と復讐心が。
「我が眷属よ、在れ!」
声とともに、天空から無数の竜が現れた。
いずれも彼の――『竜王』の眷属だ。
「さあ、ともに行くぞ! 今こそ人間どもの世界を滅ぼすとき――」