放課後、俺はヒスイと一緒にいた。

「学内トーナメント……ですか?」
「ああ、明後日から始まるんだ」

 説明する俺。

「レオン様ならきっと優勝できますよ」

 ヒスイが言った。

「優勝かぁ……そうだな、狙ってみるか」
「応援してますっ」

 ぴょんぴょんっ、と跳びはねるヒスイ。

「あ、これは勝利の舞です」
「勝利の舞……」
「必勝祈願というやつですね」
「なるほど……ありがとう」
「私も試合場に入れるなら応援したいのですが……」
「スライムは駄目だろうな、たぶん。一応モンスターだし」
「ですよね……」

 しゅんとした様子のヒスイ。
 いや、スライムだから表情とかは分からないんだが、なんとなく雰囲気で。

 ――と、そのときだった。

「……あれ?」

 ヒスイが怪訝そうな声を出した。

「どうかしたか、ヒスイ」
「いえ、今……妙な感じが」
「妙な感じ?」
「遠くの方で、強い力の波動を感じたんです」
「力の波動――」
「あ、でももう感じられなくなりました。気のせいかもしれません」

 と、ヒスイ。

「よく分からないけど、それってどういうことだ」
「もしかしたら、強大な力を持つ『何か』が目覚めようとしているんじゃないか、って思ったんです」

 ヒスイが説明する。

「俺には全然分からなかった……」
「私がモンスターだから感じ取れたのかもしれません」
「なるほど」

 俺はうなずき、またヒスイに聞く。

「そいつが目覚めるとどうなるんだ?」
「さあ?」

 ヒスイはぐにに、と体を曲げた。

「どうなるんでしょう?」
「俺に言われても」
「私、なんとなく思わせぶりなことを言いたかっただけかもしれません」

 ハッと気づいたように告げるヒスイ。

「あー……そういうときってあるよな」
「ありますか」
「あるあるだ」
「あるある……なら、問題ないですね」

 言ってから、ヒスイが真剣な口調に変わり、

「あの……レオン様」
「ん?」
「がんばって、くださいね。本当に――応援してますからっ」
「ありがとう」

 よし、闘志が湧いて来たぞ。

 和気あいあいとしつつ、力をもらいつつ――俺はいよいよ学内トーナメントに挑む。




 冒険者学校全生徒出場模擬戦闘トーナメント。

 通称を『学内トーナメント』。

 これによってこの学校に所属する生徒たちのランキングに大きな影響が出る。

 このランキングは普段の授業や考査での成績に、今回のようなトーナメントの戦績を加えて算出される順位だ。
 高ランクのものは将来の就職に有利になるという。

 具体的には、学内ランキング上位は各ギルドから引っ張りだこになるんだとか。
 そのため、ほとんどの生徒は死に物狂いでトーナメントに挑んでくる。

 そして――そんなトーナメントに、俺とマナは今日出場する。
 マナが第四試合、俺は第七試合だった。

「がんばれよ、マナ」

 選手の控室で、俺は彼女に声をかけた。

 ちなみに控室に入れるのは、直前の十試合分の選手たちだ。
 現在行われているのが第三試合だから、第四試合から第十二試合に出場する選手までがここで待機する。

 つまり、マナの出番は次である。

「う、う、うん、そそそそそそそそそうだねぇぇぇ」
「お、おい、めちゃくちゃ緊張してないか、マナ!?」
「だ、だって、やっぱり不安だよう」

 マナは泣きそうな顔をしていた。
 けっこうプレッシャーに弱いタイプみたいだな、マナって。

「ふん、あんたが私の一回戦の相手?」

 青い髪をツインテールにした美少女が話しかけてきた。

 女子としてはなかなか長身だ。
 170センチくらいだろうか。

 一方のマナは小柄な部類なので、完全に見下ろされるような格好だった。
 そのせいか、ますます気圧されたような様子を見せるマナ。

「うう、そ、そうですぅ」
「マナ、戦う前から飲まれてちゃ駄目だ。がんばれ」
「そ、そそそそそうだね。あたし負けない」
「思いっきり目が泳いでるじゃない」

 対戦相手がツッコミを入れた。

「言っておくけど、マナは強いからな」

 代わりに俺が胸を張って言った。

「ふん、学内ランキング2位――このクーデリア・スタフォードを前に『強い』ですって? 一体どれくらい強いのか、ぜひ試合で拝見したいものね」
「ひええええ、2位……」

 マナが泣きそうな顔になった。

「大丈夫だ、マナ。今の君なら1位だろうが2位だろうが敵じゃない」
「ふん、大口を叩いちゃって。試合で恥をかいても知らないわよ」

 クーデリアが鼻を鳴らす。

「相手が誰でも容赦しない。相手がどれだけ強かろうと弱かろうと容赦しない。それが私――『女帝』クーデリアのスタイル」
「女帝?」
「私の二つ名よ」

 俺の問いにクーデリアが答えた。

「……ちょっとベタすぎないか。微妙に格好悪いし」
「う、うるさいわねっ! 私が名付けたわけじゃないわよ!」

 思わずツッコんだ俺に、クーデリアは顔を真っ赤にして叫んだ。

「第三試合が終わりました。次の第四試合に出場する方は、試合場に上がって下さい」

 と、案内係が控室にやって来た。

「出番ね。じゃあ、後は試合場で」

 ツインテールをひるがえし、クーデリアが去っていく。

「叩きのめしてあげるわ、マナ・スカーレット! 覚悟してなさい!」
「うう、お手柔らかにお願いしますぅ……」

 マナは最後まで気圧されたままだった。

「がんばれ、マナ。応援してるからな」

 俺は彼女に声をかけた。

 が、彼女は力なくうなずいただけだった……。