マナに二度目のパワーレベリングを行ってから、数日後――。

「学内トーナメント?」
「そ。来週から始まるんだよ」

 マナは目をキラキラさせて語った。

「なんか嬉しそうだな」
「それはもう。学園の最大のイベントだし」
「そうなのか?」

 学園に中途入学した俺は、学内のイベントやカリキュラムについて、よく分かっていない部分がある。
 いちおう入学時にパンフレットを渡されたけど、まあ、その……面倒でちゃんと読まなかったし。

「もしかして、まさか……レオンさん、学内トーナメントのことを知らない?」
「し、知らなくなんてないって。ほら、あれだろ、えっと学内で行われるトーナメント的なやつだ」
「そのまんまじゃない」
「ごめん知らない」
「もう」

 正直に言うと、マナは苦笑しつつ説明してくれた。

「トーナメントの内容や勝敗で、生徒たちの学内ランキングが一気に変動するもん。ランキングが上がれば、就職にもグッと有利になるし! 夢の学園在籍中デビューだって……!」

 ますます目をキラキラさせながら語るマナ。

 なるほど、ランキングに大きくかかわるトーナメント、か。
 それは盛り上がるのも無理はない。

 確かに、他の生徒たちも妙にソワソワしている感じだった。



「よう、オッサン」

 マナと別れ、校舎内を歩いていると一人の少年に声をかけられた。
 ジェイルだ。

「トーナメントが楽しみだな。俺とお前は準決勝で当たる……今度は負けねーぞ」

 ジェイルが俺をにらんでいた。

「準決勝? そうなのか?」
「組み合わせを見なかったのか」
「そんなの、もらったか?」
「……一週間前に教室で配られただろ」
「俺、プリント類はあんまりちゃんと見てないんだよな」
「まったく。プリントは逐一確認しろ。各種事務連絡のチェックは冒険者にとって大事な資質だぞ」
「お前、けっこう真面目なんだな」
「当たり前だ」

 ジェイルにまたにらまれた。

「で、俺とお前は勝ち上がっていくと準決勝でぶつかるんだ。だから、それまで負けるなよ」
「応援してくれるのか。優しいな」
「ばっ……!」

 ジェイルの顔が真っ赤になった。

「ば、ば、ば、ば、ばっかじゃねーの!」

 めちゃくちゃ真っ赤だ。

「俺がお前を倒すんだ! だからそれまで他の奴に負けるな、って言ってるんだよ!」
「それ、応援だろ」
「いや、応援っていうか、なんというか……」

 しどろもどろのジェイル。

    ※

「なるほど、あいつが噂のレオン・ブルーマリンか」
「ただのオッサンじゃない」
「あんな奴が強いですって? ただの噂でしょう」
「そうそう、噂が先行してるだけだね」

 四人の生徒がレオンたちの背後から、そのやりとりを見ていた。

「行くぞ。学内トーナメントまで間がない。あんな奴にかかわっているより、コンディション調整に力を割いたほうがいい」

 彼らの中でリーダー格らしい少年が告げる。
 炎のように赤い髪をした怜悧な容姿。
 全身からあふれ出るような威圧感は、王者のごとき風格を備えている。

「何よ、ヴァーミリオン。レオンを見たいっていったのは、あんたでしょ」

 言い募ったのは、青い髪をツインテールにした勝ち気そうな美少女だ。

「ああ、そうだな、クーデリア。見た結果、大したことはないという判断だ」

 ヴァーミリオンと呼ばれた少年はふんと鼻を鳴らした。

「この俺の敵じゃない」
「そうですね。あなたの敵になり得るのは、私たち三人だけです」
「そうそう。学園最強の看板は今回のトーナメントで下ろしてもらうよ」

 残りの二人――黒髪を長く伸ばした楚々とした美少女と、金髪に生意気そうな顔立ちをした小柄な美少年が言った。

「クーデリア、エミリア、ギルバート……お前たちは強い。だが俺には勝てん」

 ヴァーミリオンが三人に告げる。

「入学以来、無敗のまま――俺はこの学園を出る。そして上級冒険者になて、さらなる伝説を作る――」
「ふん、あんたの不敗神話はあたしが終わらせるからね」

 青髪ツインテールの少女……クーデリアが告げた。

 彼ら四人の間には、見えない火花が散っている。

 学園内のランキングで上位四名に入る彼ら――その眼中に、レオンは入っていないようだった。