「十三階層までを最速踏破!?」
「全部クリアする気なんですか!?」

 ローズとメルが同時に驚きの声を上げた。

「いくらあんたでも、そう簡単なことじゃねーぞ」

 ジェイルが俺をギロリとにらむ。

「やってみなければ分からないだろ。ほら、行こう」

 俺はみんなを促した。
 何せ五人全員で帰還する必要があるからな。

「――だね。レオンさんなら、きっとできるよ」

 マナがうなずいた。

「あたしも足を引っ張らないようにがんばらなきゃ」

 健気な心掛けだった。

 ……でも、大丈夫。

 マナは強い。
 足を引っ張るどころか、頼りになる仲間だ。



 ――俺たちは先へ進んだ。

 途中の罠は俺が力業で片っ端から潰していく。
 五つほど階層を下ったところで、前方から何かが近づいて来た。

「これまでの階層は罠オンリーだったけど、今度はモンスターか……」

 前方にうごめく黒い人型のモンスター。

 野生の怪物ではなく、人造の魔法生物である。
 このダンジョン用に学園が開発したそうだ。

「どれくらいの強さなんだろ」

 俺は剣を抜いた。

「待てよ、ここは俺が行く」

 と、それを制して出てきたのはジェイルだ。

「ジェイル?」
「あんたばっかりに良い格好はさせねぇ」
「おお、仲間のために自ら危険に飛びこんでいく的なやつか」

 俺は思わずジェイルを見つめた。

「へえ、見直した」
「あなた、案外仲間想いなんですね……」
「実はいいやつ?」

 ローズ、メル、マナが口々に言った。

「そんなわけあるか!」

 ジェイルが叫んだ。

「ダンジョン探索は『パーティでの成績』と『個人の成績』の両方を見られるんだよ。おっさんばっかり活躍してたら、俺の個人貢献度がゼロ……つまり、俺の成績が下がっちまうだろーが!」
「ああ、成績のためか」
「いかにもジェイルくんって感じです」
「納得」

 ふたたびローズ、メル、マナが口々に言った。

「うるせ」

 ジェイルは俺たちをにらみ、モンスターと向き合った。

「さあ、剣でも魔法でもお望みの方で殺してやる」

 獰猛に告げて、剣を構えるジェイル。

 ヴ……ンッ。

 人型モンスターの手に光の粒子が集まり、剣の形に収束した。

「なるほど、剣の勝負をお望みか」

 剣を構えるジェイル。

「なら――一気に終わらせる!」

 突進して距離を詰めた。

 速い!
 前に模擬戦をしたときよりスピードが上がっている――。

「へっ、いずれお前をぶっ飛ばすために訓練してたんだよ!」

 吠えるジェイル。
 意外に努力家だ。

「くらえ、【五月雨(さみだれ)突き】!」

 ジェイルが高速連続刺突の剣術スキルを繰り出す。

 がががっ、と全身に強烈な突きを食らって、モンスターが後退した。

「このまま押し切る……っ」

 追撃するジェイル。

 るおおおおんっ。

 と、モンスターの両目が妖しく輝いた。

 今のは――魔法か!?
 輝きはジェイルを直撃する。

「へっ、なんともないな。発動失敗か?」

 ニヤリと笑うジェイル。

「今度は俺の番だ」

 剣を地面に突き立てると、ジェイルは詠唱を始めた。

「俺は剣だけじゃなく魔法も一流ってところを見せてやる。【ディーファイア】――何っ!?」

 発動、しない。

「今のはまさか……魔法封じか!?」