「……ちっ、しょうがねーな。入ってやるよ」

 意外と素直に、ジェイルは承諾した。
 まあ、他の生徒たちはほとんどパーティを組んでしまっていたから、他に選択の余地がなかったんだろう。

「じゃあ、よろしくな」

 こうしてパーティメンバーは俺とマナ、ジェイル、そして二人組の女子――ローズとメルの五人に決まった。

 生徒たちのパーティは順番にダンジョンに入っていく。
 順番で有利不利が生じないよう、パーティごとに別々の部屋で待機させられた。

「マナもかなりレベルが上がったし、いよいよ実戦で試せるな」
「うーん、ドキドキしてきたぁ」

 マナの顔が紅潮している。
 興奮が高まっているんだろう。

「見ててね、レオンさん。せっかくレベルを上げてもらったんだから、あたし大活躍しちゃうよ」
「ああ、がんばろう」
「随分と仲いいのね」
「ほんと、イチャイチャしてませんか?」

 ローズとメルが左右から俺たちに迫った。

 ローズは赤い髪を長く伸ばした活発そうな魔法使い。
 メルは黒髪に眼鏡の真面目そうな剣士だ。

「あたしたちとも話さない?」
「ですです」

 と、マナを押しのけるようにして、さらに迫る二人。

「あ、ちょっと……」
「レオンさんって、そんなに強いのにどうして隠してたの~?」
「そうそう、ジェイルくんに勝ったところなんてカッコよかったです~」

 二人が口々にはしゃぐ。

「いや、本人がいるからさ……」

 俺は苦笑しつつ、ちらっとジェイルを見る。

「ちっ」

 案の定、彼は不機嫌そうな顔で舌打ちしていた。

「何よ、今までさんざんレオンさんにキツくあたってた報いじゃない」
「そうそう。自業自得です」

 二人はなおもはしゃぐ。
 ジェイルのことをあまり快く思っていないのだろうか。

「まあ、それくらいにしてくれ。今はみんなパーティメンバーだ……仲間だからな」
「はーい」
「レオンさん、やさしーい」

 二人は同時にうなずいた。
 と、

「おい、そろそろ出番だぞ。いつまでも無駄口叩いてんじゃねーよ」

 ジェイルが不快そうに言った。

「俺たちの順番か」



 俺たちのパーティはダンジョン内を進んだ。

 魔法使い系のローズが魔法で明かりを作り、周囲を照らしている。
 モンスターや罠がどこに待ち構えているかも分からない。

 俺は周囲に気を配った。
 と――、

 ごごごごごっ……!

 巨大な岩が前方から転がってくる。
 古典的なトラップである。

「……もし、防げなかったらどうなるんだろう、これ」

 たぶん、なんらかの安全措置がなされてると思うけど。

「俺が対処する。みんなさがってくれ」
「対処するって――」

 訝しげな四人に俺はニヤリと笑い、

「はっ!」

 転がってくる大岩を正面から受け止めた。

「おおおおおっ……」

 そのまま力任せに押し返す。

 ごろっ……ごろごろごろごろっ!

 元来た場所まで戻っていく大岩。

「すごーい!」
「なんて剛力……!」

 ローズとメルが叫ぶ。

 が、しばらくすると、またこっちに転がってきた。

「あ……」
「いくら押し返しても、また転がってくると思うよ、レオンさん」

 マナが冷静にツッコんだ。

「だって坂だし」
「坂だな」
「うん、坂」
「坂坂言ってねーで、なんとかしろよ。オッサン」

 ジェイルがツッコミを入れた。
 いや、ツッコミじゃなくて文句を言われただけかもしれない。

「うん、確かに」

 さすがに力任せ過ぎたか。

「じゃあ、今度は」

 作戦を考えて――ではなく。

「さらに力任せだ!」

 俺は腰だめに構え、パンチを放つ。

「スキル【パワーフィスト】!」

 ごがんっ!

 大音響とともにパンチ一発で岩が砕け散った。

「す、す、すごーい!」
「さすがレオンさんです~!」

 ローズとメルがはしゃいでいる。

「まじか、このおっさん……素手であっさり岩を……」

 ジェイルは呆然とした顔だ。

「さあ、サクサクいくぞ。どこまでいけるかも重要だけど、時間も重要だからな」

 俺は皆に呼びかけた。

「燃えてるね、レオンさん」

 マナがにっこり笑う。

「ああ、燃えてきた。目指すは十三階層までの最速踏破だ――」