今日はダンジョン演習の日だった。

 この冒険者学校第22分校の裏手に、巨大なダンジョンがあるのは、以前に説明した通り。

 神話の時代――神や悪魔、古竜、巨人たちが争っていた太古の昔に造られたダンジョンだという。
 何百階層もあるダンジョンの表層――二十階層くらいまでが、この学校の管理下にある。

 その範囲内は致命的な罠や強すぎるモンスターは排除されており、ある程度安全に演習を行うことができる。
 もちろん、ある程度であって、油断すれば大怪我をすることもあり得るし、最悪死ぬこともあるんだとか。

 まあ、冒険者はやっぱり危険と隣り合わせの職業だからな。

「今回は授業で行われるダンジョン探索としては上位難度――十三階層まで行ってもらう。気を引き締めるように」

 女性教官が俺たちを見回した。

「といっても、いきなり十三階層まで行けとは言わない。自分の手に余ると思う階層を見極め、そこより前で引き返すことができればOKだ」

 と、教官。

「つまり――引き際を見極めるための演習……?」
「そういうことだ、レオン」

 教官が俺を見て、ニヤリと笑った。
 ちなみに彼女は俺と同い年らしい。

「前回同様に、今夏身も五人一組のパーティを作ってくれ」

 パーティか。
 誰と組むかな……?

 思案していると、

「こわいなぁ……レオンさん、あたしを守ってね」
「私も不安です」

 クラスメイトの女子二人が俺に迫ってきた。
 俺の左右の腕にすがりついてくる。

 なんだなんだ?
 妙にモテてる感じだ。

 いや、もちろん不安だっていうのはあるんだろうけど、今までこんなふうに頼られたことはなかったぞ。

「え、えっと、まあ、みんなでがんばろう……」

 俺は緊張と興奮で声を上ずらせた。

「レオンさん、モテモテ……」

 マナが遠くから俺を見てつぶやいた。
 どこか悲しげな表情だった。

「マナ」

 俺は女子生徒たちから離れ、彼女の元に歩み寄った。

「どうした? 今しょんぼりした顔してたぞ」
「あ、ごめんね。レオンさんが人気者になるのはいいことだけど、ちょっとだけ寂しさも感じるっていうか、遠い人になっていくっていうか……」

 マナが言った。

「話しかけづらくなっちゃうなぁ、って思うと、ちょっと悲しくなったの……えへへ、ごめんごめん」
「別に今まで通りに話してくれていいぞ。俺だってマナが一番話しやすいし」

 俺はにっこり笑った。

「え、本当?」
「当たり前だろ」
「やった」

 マナは嬉しそうにぴょんと跳んだ。

「五人一組だから、マナもパーティに入るか?」
「えっ、でも……」

 ちらり、とさっきの二人組を見つめる。

「あの子たちを合わせても四人だし問題ないだろ」
「そ、そっか……そうだね。ありがと」

 よし、これで四人だ。
 あと一人は――。

「ちっ、チャラチャラしやがって……くそっ」

 そんな声が聞こえた。

「ん?」

 見れば、ジェイルが俺をにらんでいる。

「俺の周りには誰も寄って来ないのによ……」
「本当だ、ぼっちだな」
「もしかしたら、この前の模擬戦でレオンさんに負けて、みんな離れていっちゃったのかな?」
「なるほど……コテンパンだったからな」
「うるせーな、全部聞こえてるぞ」

 ジェイルが苛立ったように、俺をまたにらんだ。

 まあ、こいつには散々嫌な目に合わされたんだ、これくらい言ってもバチは当たらないだろう。
 とはいえ――ひとりぼっちか。

「なあ、お前も俺たちのパーティに入るか?」

 半ば衝動的に誘ってしまった。

「何?」
「俺とマナ、それにあの二人組とお前――ちょうど五人だからな」