冴えないおっさん、竜王のうっかりミスでレベル1000になり、冒険者学校を成り上がり無双

「お前、しゃべれたのか」
「先ほどご主人様のパワーレベリングで【言語習得】を覚えましたっ」

 スライムが元気よく語る。

「【言語習得】……?」

 俺はふたたびスライムを鑑定してみる。

――――――――――――
種族:スライム
レベル:10→20
体力 :400→800
筋力 :0→0
速度 :200→400
スキル:【変形】
    【分裂】
    【溶解】
    【言語習得】
     ↑new!
    【大ジャンプ】
     ↑new!
――――――――――――

 またスキルが増えてる!

「ん? お前、もしかして女……か?」

 そう、スライムの声は明らかに女のものだった。

「あれ? 見て分かりませんでしたか……」
「分からんだろ、普通」
「私が女らしくない、と……?」
「スライムの外見に男らしいとか女らしいとかがあるのか……?」
「この魅惑のグラマラスボディはどう見ても女だと思いますが」
「いや、全然分からん」
「そうですか……」

 どことなく、スライムの態度がしゅんとして見えた。

「それはそうと……いつもお世話になっています。引き続きよろしくお願いします」

 礼儀正しい奴だな。

「こちらこそよろしくな」

 俺はにっこりと礼を返した。
 それから、ふと思いつく。

「そうだ、お前って名前はあるのか? いつもスライムって呼んでたけど、名前があるならそっちで呼ぶぞ?」
「名前? 考えたこともなかったです」

 と、スライム。

「なるほど。個人名はないのか」

 鑑定スキルでも、こいつの個人名っぽいのは表示されてないしな。

「あ、でも。自分だけの名前があるというのは憧れますっ」
「じゃあ、つけてみるか。名前」

 というわけで、名付けタイム突入――。
「スライムの名前……うーん……」

 いざ考えてみると、なかなか難しいな、名付けって。
 いや、というか――、

「お前はどんな名前がいいんだ? 希望があったら言ってくれ」

 まずこいつに聞くべきだったな。

「私には考えつかないのでマスター、お願いします」

 ぐにっ、と体を二つ折りするスライム。

 いつもとは体の折り曲げ方の角度が違う。
 もしかしたら『礼』をしたんだろうか。

 なかなか器用な奴だ。

「むむむ……悩むな。そうだ、マナにも聞いてみるか」

 俺は彼女の助けを仰ぐことにした。



「――というわけで、助けを借りたい」

 俺はマナを呼び出した。
 ここは校舎裏にある小さな庭園だ。

「スライムの名前……?」

 マナがきょとんと首をかしげた。

「レオンさん、スライムを手なずけてるんだね。すごい」
「初めまして、マナさん」

 ぐにっ、と体を二つ折りするスライム。
 やはり礼をしているようだ。

「初めまして。マナでーす」

 彼女はにっこりと礼を返した。

「名前か―……うーん、悩むねー」

 と、首をひねるマナ。

「スライムだからスライム子ってのはどうだ?」

 俺が提案する。

「……スライムの下に『子』をつけただけじゃない」

 マナはジト目になった。

「安直だけど、いいネーミングじゃないか?」
「レオンさんって強いけどネーミングセンスは、ちょっと……」
「むむむ……そうか」
「綺麗なヒスイ色をしてるから……ヒスイちゃんとか」
「お前もけっこう安直なネーミングセンスだな」
「あ、そうかも」
「でも、ヒスイってのはいい響きだ」

 ぐにっ、ぐににににっ。

 スライムが何度も体を折り曲げた。
 力強くうなずいている感じがするぞ。

「ってことは、気に入ったのか? ヒスイって名前」

 ぐにっ、ぐににににっ。

「おお、それなら――お前は今日からヒスイだ!」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」

 嬉しそうなスライム――あらため、ヒスイ。

「いや、しゃべれるんだから、最初から言葉で言ってくれよ」

 俺は思わず苦笑した。

「えへへ、まだ慣れてなくて」
「それもそうか。じゃあ、これからどんどん慣れていこう。いっぱい話そう」
「はい、嬉しいですっ」

 可愛いな、こいつ。

「あらためて、よろしくなヒスイ。あ、そういえば、俺も名乗ってなかったか……レオン・ブルーマリンだ」
「よろしくお願いしますね、レオン様」

 ヒスイが言った。
「あ、そうだ。マナのパワーレベリングも進めさせてもらってもいいか?」
「えっ、それって前に言ってたやつ?」
「ああ」
「嬉しい。やった!」

 俺の言葉にマナがぴょんと跳んだ。

 嬉しいとすぐにジャンプするな、この子……。
 まあ、可愛いからいいんだけど。

「スライム相手にコツをつかんだ。ただ、レベルは5刻みくらいでやってみよう」

 念のために、な。

「最初に【鑑定】でマナのステータスを見る必要があるんだけど……いいかな?」

【レベルアッパー】で対象のレベルを指定しなきゃいけないんだけど、元のレベルを知らないと、強くしすぎたり、逆に元の数字より弱くしてしまうこともありうる。

「【鑑定】……それって、どの辺まで見られるの?」

 マナが急に恥ずかしそうな顔をして胸元を押さえた。

「……別に体のサイズとか体重まで見えるわけじゃないぞ」
「なんだ、よかった!」

 とたんにホッとしたような顔をするマナ。

「さ、レオンさん、どうぞ~」

 と、俺に向き直る。

「じゃあ、失礼して――【鑑定】!」

 俺は【鑑定】スキルで彼女のステータスを見せてもらった。

――――――――――――
名前 マナ・スカーレット
種族 :人間
レベル:3
体力 :12
筋力 :9
速度 :15
スキル:【上段斬り】
   :【下段斬り】
――――――――――――

 なるほど、剣士系のスキルを身に付けてるんだな。
 レベルが3っていうのは、人間としてどれくらいの水準なんだろう?

 まだ、この鑑定スキルをちゃんと使った経験がほとんどないから未知数だ。

「マナのレベルは3だから、まず10にしてみよう」
「レベルを上げる?」
「ああ、俺が教えてもらった術式は『対象のレベルに干渉する』方式なんだ」

 暗黒竜王から教わった内容を思い出しながら説明する俺。

「だから、特定のステータスだけを伸ばすことはできない。たとえば、マナの体力だけを12から50にするとか、そういうピンポイントのパワーレベリングは使えないんだ」
「ほむふむ」

 マナがうなずく。

「あたしは強くしてもらえるだけでオールOKなので……ぜひお願いしますっ」
「よし、じゃあリラックスしてくれ。今からマナのパワーレベリングを始めるぞ」
 俺はマナと向かい合った。

 うっ……。
 いざこうして至近距離で向かい合うと、けっこう緊張する。

 何せマナはかなりの美少女だからな。

 いや、落ち着け俺。
 彼女は十代だぞ。
 アラサーの俺がドキドキしていい相手じゃない。

「すうはあ、すうはあ」

 深呼吸だ……ついでに素数とか数えて落ち着いてみるか。

「? どうしたの、レオンさん?」

 マナはキョトンとした表情だった。

「はっ!? よ、邪まなことなんて考えてないぞっ!?」
「???」

 マナはますますキョトン顔である。

 ……いいかげんに落ち着こう、俺。

「『力』を注ぐからな。リラックスしてくれ」

 俺はマナの手を取った。

「う、うん……」

 彼女は緊張気味の表情だ。

「力が入ってるぞ」
「えっ、あ、ごめんなさい……」

 言いながら、マナはますます全身をこわばらせている。
 どうも緊張するタイプらしいな。

 リラックスしてくれ、って言ったことで、かえって緊張が高まったのか。

「よし。じゃあ、逆に力を入れてみよう」
「えっ」
「気合いだ」

 俺はマナを見つめて、ぐっと拳を握る。

「気合い……」

 ごくりと喉を鳴らすマナ。

「じゃあ、やってみる……ふおおおお……」

 気合いの声が響く。
 と言っても、可愛らしいものだが。

 中腰になり、右手で俺の手を握ったまま、左手は拳を形作っている。

「はああああああ……」

 さらに気合いの声。

「ぷはー……つかれた」

 急にその力が抜けた。

 よし、今だ!

「『力』を――注入する! 【レベルアッパー】!」

 俺は一気に『力』を注いだ。
「へっ!? ひあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 マナは戸惑い声だ。

 彼女の中に竜王の力の一部が流れこんでいるのだった。

「ふうっ……マナに『力』を与えたんだけど、分かるか?」
「えっ? えーっと……」

 マナは自分の体をしげしげと見下ろしていた。

「なんだか、力がみなぎってくるような……」
「【鑑定】で確認してもいいか?」
「うん、どうぞ!」

 マナがうなずく。

「【鑑定】――」

――――――――――――
名前 マナ・スカーレット
種族 :人間
レベル:3→8
体力 :12→32
筋力 :9→24
速度 :15→40
スキル:【上段斬り】
   :【下段斬り】
   :【剛剣】
     ↑
     new!
――――――――――――

「お、ちゃんとレベルが上がったぞ。スキルも増えてるな」

 俺は彼女の新しいステータスを確認してうなずいた。

「えっ、あたし、強くなったのかな?」

 と、マナ。

「試しに剣を振ってみてくれ」
「じ、じゃあ……」

 マナがすらりと剣を抜いた。

「素振り……いっきまーす」

 上段に振りかぶる。

「えいっ」

 ぶんっ!

「おお、なんか鋭い振りだぞ!」
「本当? じゃあ、もうちょっと……」

 えいっ、えいっ、と素振りを始めるマナ。
 剣で風を切る音が小気味いい。

「どうだ、マナ? 前とは違う感じか?」
「うん、何回やっても全然疲れない」

 マナが振り返って笑った。

「あたし、腕力上がってるかも」
「おお、よかった」

 とりあえずパワーレベリング成功だ。

「さっきはお試しだったけど、今度はもう少し『力』を注いでみるか?」
「いいの?」
「マナさえよければ」
「じゃあ、お願いできるかな? えへへ」

 嬉しそうに近づくマナ。

「あたし、強くなれるんだ……」

 目がキラキラしていた。




※ ※ ※

この後、20時過ぎにもう一話投稿します。今日からは一日複数回投稿の予定です(グラスト大賞の規定で月末くらいまでに8万字以上とうこうしなきゃいけないので……)
――――――――――――
名前 マナ・スカーレット
種族 :人間
レベル:20
体力 :80
筋力 :60
速度 :100
スキル:【上段斬り】
   :【下段斬り】
   :【剛剣】
   :【見切り・初級】
   :【貫通】
――――――――――――

 最終的にマナのステータスはこんな感じになった。

 まだまだパワーレベリングはできるんだけど、あまり一気に強くなると力の加減が難しくなるからな。

「いったんここで終わりにしよう」
「うん、ありがとう!」

 マナは本当にうれしそうだ。

「うわー、素振りも速い~!」

 と、剣を振っている。

「ふいー、疲れた……」

 それから、ふいに肩で息をし始めた。

「ん?」
「なんだか、普段より疲れやすい気がするの」

 と、マナ。

 ハアハアと荒い息をついているし、汗だくだ。
 今、ほんの数回の素振りをしただけなんだけど……。

「まだ何回か剣を振っただけだよな?」

 確認する俺。

「うん、普段ならさすがにこれくらいじゃ疲れないし」
「やっぱりパワーレベリングの影響か?」

 レベル8に上がったときには『全然疲れない』って言ってたのに。
 レベル20に上がると、また違うんだろうか。

 一振りがさらに鋭くなって、体力の消耗が激しくなったとか?

 剣の世界は奥が深い――。

「体にどこか違和感とか、不調はないか?」

 心配になってたずねた。

「違和感も不調な感じもないよ。むしろ、元気がみなぎってる感じ。えへへ」

 笑うマナ。

「ただ――その元気に、体が追い付かない、っていうか」
「追いつかない?」
「思った以上に力が出すぎて、やたらと疲れるんだよね。多分慣れてないからだと思う。気合いが空回りする感じ、っていうか……」
「なるほど……」
「だから、慣れれば大丈夫だよ。まず『強くなった自分』に慣れるところから始めてみる。ありがと、レオンさん」
「俺で役に立てたなら何よりだ」
「あたし、ちょっと自主練してくるね。それじゃ」

 言うなり、マナは元気に駆け出して行った。

「絶対、もっと強くなるからね、あたし!」
「ああ、その意気だ」

 よし、俺もがんばろう――。

「ですね」

 ヒスイがぴょんぴょんと俺の周りを飛んでいた。
 今日はダンジョン演習の日だった。

 この冒険者学校第22分校の裏手に、巨大なダンジョンがあるのは、以前に説明した通り。

 神話の時代――神や悪魔、古竜、巨人たちが争っていた太古の昔に造られたダンジョンだという。
 何百階層もあるダンジョンの表層――二十階層くらいまでが、この学校の管理下にある。

 その範囲内は致命的な罠や強すぎるモンスターは排除されており、ある程度安全に演習を行うことができる。
 もちろん、ある程度であって、油断すれば大怪我をすることもあり得るし、最悪死ぬこともあるんだとか。

 まあ、冒険者はやっぱり危険と隣り合わせの職業だからな。

「今回は授業で行われるダンジョン探索としては上位難度――十三階層まで行ってもらう。気を引き締めるように」

 女性教官が俺たちを見回した。

「といっても、いきなり十三階層まで行けとは言わない。自分の手に余ると思う階層を見極め、そこより前で引き返すことができればOKだ」

 と、教官。

「つまり――引き際を見極めるための演習……?」
「そういうことだ、レオン」

 教官が俺を見て、ニヤリと笑った。
 ちなみに彼女は俺と同い年らしい。

「前回同様に、今夏身も五人一組のパーティを作ってくれ」

 パーティか。
 誰と組むかな……?

 思案していると、

「こわいなぁ……レオンさん、あたしを守ってね」
「私も不安です」

 クラスメイトの女子二人が俺に迫ってきた。
 俺の左右の腕にすがりついてくる。

 なんだなんだ?
 妙にモテてる感じだ。

 いや、もちろん不安だっていうのはあるんだろうけど、今までこんなふうに頼られたことはなかったぞ。

「え、えっと、まあ、みんなでがんばろう……」

 俺は緊張と興奮で声を上ずらせた。

「レオンさん、モテモテ……」

 マナが遠くから俺を見てつぶやいた。
 どこか悲しげな表情だった。

「マナ」

 俺は女子生徒たちから離れ、彼女の元に歩み寄った。

「どうした? 今しょんぼりした顔してたぞ」
「あ、ごめんね。レオンさんが人気者になるのはいいことだけど、ちょっとだけ寂しさも感じるっていうか、遠い人になっていくっていうか……」

 マナが言った。

「話しかけづらくなっちゃうなぁ、って思うと、ちょっと悲しくなったの……えへへ、ごめんごめん」
「別に今まで通りに話してくれていいぞ。俺だってマナが一番話しやすいし」

 俺はにっこり笑った。

「え、本当?」
「当たり前だろ」
「やった」

 マナは嬉しそうにぴょんと跳んだ。

「五人一組だから、マナもパーティに入るか?」
「えっ、でも……」

 ちらり、とさっきの二人組を見つめる。

「あの子たちを合わせても四人だし問題ないだろ」
「そ、そっか……そうだね。ありがと」

 よし、これで四人だ。
 あと一人は――。

「ちっ、チャラチャラしやがって……くそっ」

 そんな声が聞こえた。

「ん?」

 見れば、ジェイルが俺をにらんでいる。

「俺の周りには誰も寄って来ないのによ……」
「本当だ、ぼっちだな」
「もしかしたら、この前の模擬戦でレオンさんに負けて、みんな離れていっちゃったのかな?」
「なるほど……コテンパンだったからな」
「うるせーな、全部聞こえてるぞ」

 ジェイルが苛立ったように、俺をまたにらんだ。

 まあ、こいつには散々嫌な目に合わされたんだ、これくらい言ってもバチは当たらないだろう。
 とはいえ――ひとりぼっちか。

「なあ、お前も俺たちのパーティに入るか?」

 半ば衝動的に誘ってしまった。

「何?」
「俺とマナ、それにあの二人組とお前――ちょうど五人だからな」


「……ちっ、しょうがねーな。入ってやるよ」

 意外と素直に、ジェイルは承諾した。
 まあ、他の生徒たちはほとんどパーティを組んでしまっていたから、他に選択の余地がなかったんだろう。

「じゃあ、よろしくな」

 こうしてパーティメンバーは俺とマナ、ジェイル、そして二人組の女子――ローズとメルの五人に決まった。

 生徒たちのパーティは順番にダンジョンに入っていく。
 順番で有利不利が生じないよう、パーティごとに別々の部屋で待機させられた。

「マナもかなりレベルが上がったし、いよいよ実戦で試せるな」
「うーん、ドキドキしてきたぁ」

 マナの顔が紅潮している。
 興奮が高まっているんだろう。

「見ててね、レオンさん。せっかくレベルを上げてもらったんだから、あたし大活躍しちゃうよ」
「ああ、がんばろう」
「随分と仲いいのね」
「ほんと、イチャイチャしてませんか?」

 ローズとメルが左右から俺たちに迫った。

 ローズは赤い髪を長く伸ばした活発そうな魔法使い。
 メルは黒髪に眼鏡の真面目そうな剣士だ。

「あたしたちとも話さない?」
「ですです」

 と、マナを押しのけるようにして、さらに迫る二人。

「あ、ちょっと……」
「レオンさんって、そんなに強いのにどうして隠してたの~?」
「そうそう、ジェイルくんに勝ったところなんてカッコよかったです~」

 二人が口々にはしゃぐ。

「いや、本人がいるからさ……」

 俺は苦笑しつつ、ちらっとジェイルを見る。

「ちっ」

 案の定、彼は不機嫌そうな顔で舌打ちしていた。

「何よ、今までさんざんレオンさんにキツくあたってた報いじゃない」
「そうそう。自業自得です」

 二人はなおもはしゃぐ。
 ジェイルのことをあまり快く思っていないのだろうか。

「まあ、それくらいにしてくれ。今はみんなパーティメンバーだ……仲間だからな」
「はーい」
「レオンさん、やさしーい」

 二人は同時にうなずいた。
 と、

「おい、そろそろ出番だぞ。いつまでも無駄口叩いてんじゃねーよ」

 ジェイルが不快そうに言った。

「俺たちの順番か」



 俺たちのパーティはダンジョン内を進んだ。

 魔法使い系のローズが魔法で明かりを作り、周囲を照らしている。
 モンスターや罠がどこに待ち構えているかも分からない。

 俺は周囲に気を配った。
 と――、

 ごごごごごっ……!

 巨大な岩が前方から転がってくる。
 古典的なトラップである。

「……もし、防げなかったらどうなるんだろう、これ」

 たぶん、なんらかの安全措置がなされてると思うけど。

「俺が対処する。みんなさがってくれ」
「対処するって――」

 訝しげな四人に俺はニヤリと笑い、

「はっ!」

 転がってくる大岩を正面から受け止めた。

「おおおおおっ……」

 そのまま力任せに押し返す。

 ごろっ……ごろごろごろごろっ!

 元来た場所まで戻っていく大岩。

「すごーい!」
「なんて剛力……!」

 ローズとメルが叫ぶ。

 が、しばらくすると、またこっちに転がってきた。

「あ……」
「いくら押し返しても、また転がってくると思うよ、レオンさん」

 マナが冷静にツッコんだ。

「だって坂だし」
「坂だな」
「うん、坂」
「坂坂言ってねーで、なんとかしろよ。オッサン」

 ジェイルがツッコミを入れた。
 いや、ツッコミじゃなくて文句を言われただけかもしれない。

「うん、確かに」

 さすがに力任せ過ぎたか。

「じゃあ、今度は」

 作戦を考えて――ではなく。

「さらに力任せだ!」

 俺は腰だめに構え、パンチを放つ。

「スキル【パワーフィスト】!」

 ごがんっ!

 大音響とともにパンチ一発で岩が砕け散った。

「す、す、すごーい!」
「さすがレオンさんです~!」

 ローズとメルがはしゃいでいる。

「まじか、このおっさん……素手であっさり岩を……」

 ジェイルは呆然とした顔だ。

「さあ、サクサクいくぞ。どこまでいけるかも重要だけど、時間も重要だからな」

 俺は皆に呼びかけた。

「燃えてるね、レオンさん」

 マナがにっこり笑う。

「ああ、燃えてきた。目指すは十三階層までの最速踏破だ――」
「十三階層までを最速踏破!?」
「全部クリアする気なんですか!?」

 ローズとメルが同時に驚きの声を上げた。

「いくらあんたでも、そう簡単なことじゃねーぞ」

 ジェイルが俺をギロリとにらむ。

「やってみなければ分からないだろ。ほら、行こう」

 俺はみんなを促した。
 何せ五人全員で帰還する必要があるからな。

「――だね。レオンさんなら、きっとできるよ」

 マナがうなずいた。

「あたしも足を引っ張らないようにがんばらなきゃ」

 健気な心掛けだった。

 ……でも、大丈夫。

 マナは強い。
 足を引っ張るどころか、頼りになる仲間だ。



 ――俺たちは先へ進んだ。

 途中の罠は俺が力業で片っ端から潰していく。
 五つほど階層を下ったところで、前方から何かが近づいて来た。

「これまでの階層は罠オンリーだったけど、今度はモンスターか……」

 前方にうごめく黒い人型のモンスター。

 野生の怪物ではなく、人造の魔法生物である。
 このダンジョン用に学園が開発したそうだ。

「どれくらいの強さなんだろ」

 俺は剣を抜いた。

「待てよ、ここは俺が行く」

 と、それを制して出てきたのはジェイルだ。

「ジェイル?」
「あんたばっかりに良い格好はさせねぇ」
「おお、仲間のために自ら危険に飛びこんでいく的なやつか」

 俺は思わずジェイルを見つめた。

「へえ、見直した」
「あなた、案外仲間想いなんですね……」
「実はいいやつ?」

 ローズ、メル、マナが口々に言った。

「そんなわけあるか!」

 ジェイルが叫んだ。

「ダンジョン探索は『パーティでの成績』と『個人の成績』の両方を見られるんだよ。おっさんばっかり活躍してたら、俺の個人貢献度がゼロ……つまり、俺の成績が下がっちまうだろーが!」
「ああ、成績のためか」
「いかにもジェイルくんって感じです」
「納得」

 ふたたびローズ、メル、マナが口々に言った。

「うるせ」

 ジェイルは俺たちをにらみ、モンスターと向き合った。

「さあ、剣でも魔法でもお望みの方で殺してやる」

 獰猛に告げて、剣を構えるジェイル。

 ヴ……ンッ。

 人型モンスターの手に光の粒子が集まり、剣の形に収束した。

「なるほど、剣の勝負をお望みか」

 剣を構えるジェイル。

「なら――一気に終わらせる!」

 突進して距離を詰めた。

 速い!
 前に模擬戦をしたときよりスピードが上がっている――。

「へっ、いずれお前をぶっ飛ばすために訓練してたんだよ!」

 吠えるジェイル。
 意外に努力家だ。

「くらえ、【五月雨(さみだれ)突き】!」

 ジェイルが高速連続刺突の剣術スキルを繰り出す。

 がががっ、と全身に強烈な突きを食らって、モンスターが後退した。

「このまま押し切る……っ」

 追撃するジェイル。

 るおおおおんっ。

 と、モンスターの両目が妖しく輝いた。

 今のは――魔法か!?
 輝きはジェイルを直撃する。

「へっ、なんともないな。発動失敗か?」

 ニヤリと笑うジェイル。

「今度は俺の番だ」

 剣を地面に突き立てると、ジェイルは詠唱を始めた。

「俺は剣だけじゃなく魔法も一流ってところを見せてやる。【ディーファイア】――何っ!?」

 発動、しない。

「今のはまさか……魔法封じか!?」