「我を納得させるだけの力を見せてみろ、人間」

 暗黒竜王が傲然と告げる。

 ヴン……!

 胸元にあるクローバーに似た形の紋章が鈍い輝きを放った。
 その全身から黒い炎のようなエネルギーが立ちのぼる。

「ぐっ……!」

 周囲に吹き荒れる衝撃波。

 奴が何か攻撃を仕掛けてきた──わけじゃない。
 たぶん、今のは暗黒竜王が『ちょっと気合いを入れた』だけなんだろう。

 ただそれだけで物理的な圧力さえ伴う、すさまじい威圧感が生まれたのだ。

「さすがに……とんでもないな。暗黒竜王」

 俺はこみ上げる恐怖を抑えようと笑う。
 と、

「へえ、人間相手に力試し? 酔狂ね」

 声が響く。
 暗黒竜王の頭上からだ。

「あれは──」

 竜の頭部に人の姿があった。

 銀色の長い髪に褐色の肌。
 踊り子を思わせる露出の多い衣装を身に着けた美女だ。

「誰だ……!?」
「私は『導きの巫女』。すべてを見通す力を持つ、暗黒竜王のサポート役、ってところね」

 微笑む巫女。

「ま、正確にはこの『暗黒竜王』と同じく水燐竜王が生み出したイメージなんだけど」

 見た感じでは、生身の人間とまるで変わらない。

「そして今は、あなたの力を見極める審判役よ」
「審判……?」
「彼女がお前に合格かどうかの裁定を下すということだ」

 暗黒竜王が告げた。

「さあ、来い。お前の力を見せてみろ」

 ゴウッ……!

 衝撃波がさらに強く、吹き荒れた。

「水燐竜王から与えられた『竜の力』を」

 確かに、暗黒竜王はとんでもない相手だ。
 だけど、考えようによっては、これほどいい訓練はない。

 俺の力──レベル1000のステータスは、人間相手には全力で振るえない。
 かなり手加減してさえ、下手すると大怪我をさせかねないほどの力だ。

 だけどこの場所、このシチュエーションでなら、遠慮なく全力を尽くせるはずだ。

「じゃあ、お望み通り──」

 俺は身構えた。

 少しずつ気持ちが落ち着いていく。

 確かにあいつはすさまじい力の持ち主なんだろう。
 何せ神や悪魔と同等以上の存在なんだからな。

 だけど、俺にだってその力は宿っている。
 まるっきり戦えない、ってことはないはずだ。

 だんだんと闘志が湧いてきた。

 ──さて、どう戦うか。

 すっかり冷静に戻った頭で思案する。

 相手はとにかく体が大きい。
 接近戦なんて挑んだら、あっさり踏みつぶされるだろう。

 まずは遠距離戦から挑むべきか。

「どうした? 来ないなら、こっちから行くか?」

 暗黒竜王が悠然と一歩踏み出す。

 ずしん、と地面が震えた。

 たった一歩歩いただけで、すさまじい迫力だ。

 やっぱり、こいつと距離を詰めちゃいけない──。

「【エクスファイア】!」

 俺は魔法を放った。
 上級の火炎呪文である。

「ほう、無詠唱で上級魔法を使えるのか。しかも詠唱を省略して、なおこれほどの魔力を乗せられるとは──高位魔族や上位天使並の能力だな」

 暗黒竜王が感心したように言った。

「ならば、我がブレスでかき消してくれよう。受けよ、【滅びの光芒(ライトニングバニッシャー)】!」

 その口が大きく開き、青白い光線が放たれた。

 バシュッ……。

 ドラゴンブレスに飲みこまれた俺の火炎が、あっさりと吹き消される。

「な、なんだ、この威力は──」

 やはり、強い。

 これが暗黒竜王か……!