昼休み。

 俺は校内の食堂で昼食をとるところだった。
 冒険者学校において、もっとも楽しみな時間帯である。
 と、

「あ、レオンさん……えっと、隣に座ってもいい……?」

 マナが遠慮がちに、俺の席の前にやって来た。

「ああ、いいぞ」
「やったー」

 嬉しそうに俺の隣に座るマナ。

 やっぱり、可愛いな。
 つい心をときめかせてしまう。

 い、いや、この子が俺の半分くらいの年齢だということは分かってる!
 俺の気持ちは、その、あれだ!
 あくまでも愛でるというか、保護欲というか、そういう系だ。

 けっしてよこしまな気持ちじゃないからな!
 本当だからな!

「……レオンさん、どうかしたの? 独り言?」

 マナが不思議そうに俺を見ていた。

「はっ、いつのまにか心の声を口に出してた!?」
「よこしまとか、なんとか……」
「ち、ちちちちちちちち違うっ! 俺は下心とかえちちな気持ちとかはないからな!」
「???」

 きょとん、と首をかしげるマナ。
 そういう仕草も可愛い。

 知り合ってから、おおよそ一か月弱。
 こんなふうに彼女を『可愛い』と感じる頻度が増えてきたように思える。
 と、

「……見てよ、あれ」
「……ああ、あの子だっけ? 父親が犯罪者っていうのは」
「……注目株のレオンに取り入ってるね」
「……おおかた、女の武器で蕩かせて、利用しようって腹でしょ」
「……可愛い顔して、やることえげつないねー」

 などと、穏やかではない内容のヒソヒソ話が聞こえてきた。

 なんだなんだ?

「──ごめんなさい、レオンさん。私のことで、あなたまで悪く言われちゃうかも」

 今の話が聞こえたのか、マナの表情が暗くなった。

「よく分からないけど、俺はあんなふうに陰口叩く連中は好きじゃない。ああいう話よりも、マナ自身を信じるよ」
「……ありがと、レオンさん」

 マナはまだ暗い表情だったが、それでも微笑んでくれた。



 放課後、俺はマナに呼ばれ、施設の裏手で話していた。

「昼休みの話、全部が嘘ってわけじゃないの」

 マナが切り出した。

「あ、女の武器で蕩かせて、とかは嘘だからね! そ、そんなこと、私しないから!」

 と、顔を真っ赤にして付け加える。

「えっと、話を戻すと……私のお父さんは、多額の借金を背負っているの」
「借金?」
「悪い友人に騙されて。で、それを返すために、私は冒険者を目指してる。この仕事なら一攫千金もあり得るから」
「そんな事情があったのか……」

 父親が犯罪者──なんて言われてたのは、その話が歪んで伝わった、ってことだろうか。

「といっても、そのためにはただ冒険者になるだけじゃなく、できるだけ高いランクに行かなきゃいけないんだけどね。私、そんなに才能がある方じゃないから……」

 マナの表情がまた暗くなる。

「この前の模擬戦じゃ二勝一敗だったろ。別に弱くはないんじゃないか」
「それはたまたま対戦相手が相性がよかっただけ。私の学内ランキングは300位台。たぶん、そのうち400位台まで落ちちゃう……」

 学内全体で500人程度の生徒がいるから、400位台は下のほうだ。

 まあ、俺は500位台だったけどな。
 最近、演習や模擬戦で実績を上げたから、いずれランキングはかなり上がるはずだけど……。

「そうだ、俺がマナに教えようか? 戦い方を」
「えっ……?」
「きっとマナも強くなれる」
「レオンさんみたいに……?」
「ああ」

 すがるような表情のマナに、俺は力強くうなずいた。

 こんな顔してるマナを放っておけないからな。
 リンに頼んで、パワーレベリングを本格的に学んでみよう。

 俺も、そしてマナも──一緒に冒険者学校で駆け上がるんだ。