模擬戦は、直径十メートルの円形の闘技場内で行われる。

 四方に魔導装置がついていて、生徒に対して致命的なダメージが加わった場合、これをほぼ無効化してくれるんだという。

 精密な装置で簡単に壊れてしまうから、戦争なんかには使えない。
 だけど、こういった訓練にはうってつけの装置である。

 今回は接近戦の訓練、ということで魔法や弓などの遠距離攻撃は禁止されていた。

 今も、闘技場で生徒同士の戦いが行われている。

「きゃあっ……」

 悲鳴とともに、吹っ飛ばされたのはマナだ。
 からん、と彼女の剣がそのそばに転がる。

「ま、参りました……」

 起き上がれないらしく、マナは倒れたまま降参を告げた。

「ふん、相変わらず弱いね」

 勝った方の女子生徒は剣を鞘にしまいながら嘲笑した。

「おかげで苦労せずに模擬戦の評価点が手に入るわ。ありがとね、マナ」
「うう……悔しい」

 歯噛みするマナ。

 対戦相手は学内ランキング100位台、マナは300位台。
 これくらいのランキング差だと、実力にけっこう開きがあるみたいだ。

「次、レオンとジェイル!」

 教官が俺とジェイルの名前を呼んだ。

「いよいよ出番か」
「がんばってね、レオンさん」

 闘技場から降りてきたマナが声をかけてきた。

「ありがとう」

 うなずき、闘技場に上がる俺。

「へへ、ラッキーだぜ。お前みたいな雑魚が相手で」

 ジェイルが反対側の端に立っていた。

「楽勝で評価点をもらえるな」

 思えば、こいつには入学当初からさんざん馬鹿にされてきた。
 授業にかこつけて叩きのめされたこともある。

 でも、そんな理不尽な目に遭うことはもうない。

 今の俺には、すべてを覆す力があるんだから──。

「試合、始め!」

 教官の声とともに、俺とジェイルはそれぞれ剣を抜いた。

 刃を潰してある訓練用の剣。
 ダメージ軽減の魔法付与がされているため、全力で打ちこんでもせいぜい打撲程度で済む。

 とはいえ、当然痛いことは痛い。

「へへ、じっくりといたぶらせてもらうからな、オッサン」

 ジェイルが舌なめずりをする。

「やってみろ」

 俺は無造作に前進した。

「おら、まず一発目ぇっ!」

 ジェイルが剣を繰り出す。

 さすがに上級冒険者候補だけあって、鋭い斬撃だった。
 ただし──今の俺の動体視力の前には、止まって見える。

 ぎいんっ。

 重く響く金属音。

 下からすくい上げるような俺の斬撃が、ジェイルの剣を弾き飛ばした。

「えっ……?」

 呆然としたジェイルに、俺は第二撃を叩きこむ。

「がはぁっ……!」

 ジェイルは闘技場の端まで吹っ飛ばされた。

「はあ、はあ、はあ……」

 息を荒げ、弱々しく立ち上がるジェイル。

「な、なんだ……? 今、何をした……!? 速すぎて斬撃が見えない……!?」
「どうした? じっくりいたぶるんじゃなかったのか?」

 俺はゆっくりと距離を詰める。

「な、何かの間違いだ! ふざけやがってぇ!」

 頭に血が上っているのか、ジェイルが剣を手に突っこんできた。

「もうしばらく付き合ってもらうか」

 俺は剣を構えた。

 今まで散々やられたんだ。
 これくらいの仕返しをしたって、バチは当たらないよな?