翌日。
 今日は生徒同士での実戦形式の模擬戦授業がある。

 これは、学校内でのランキングにもかかわってくる重要な授業だった。
 学内の生徒は各授業の成績や学内外での模擬戦によって、ランキング付けされている。
 特に模擬戦の成績はランキングに大きな影響を与えるという。

 で、このランキング上位者は『上級冒険者』の資格を得る。
 一獲千金を容易に狙えるため、この資格を狙う生徒は多い。

「よう、オッサン。今日の授業が楽しみだな」

 ジェイルが声をかけてきた。
 あいかわらず、俺を小ばかにするような態度だ。

「マットはお前のことを妙に恐れてるみたいだが、俺にはハッタリは通じねぇ。模擬戦で叩きのめしてやるからな」
「お手柔らかに」

 俺は余裕だった。

「なんだ、その態度は? まさか、俺のことを舐めてんじゃねーだろうな?」
「いや、全然」

 苛立ったようなジェイルに、俺は平然と返した。

「ただ把握してるだけだ。お互いの実力を」
「それを舐めてるって言うんだよ!」

 ジェイルがいきなりキレた。

「お前ごときが俺を見下す気か?」
「どっちが上かは模擬戦で分かるだろ」
「……そうだな。模擬戦はいちおう安全用の魔導装置がセットされてるが、事故がないわけじゃない。当たり所が悪くて、大怪我することだってある。運が悪けりゃ死ぬこともな」
「気を付けないとな」

 脅してくるジェイルにも、俺は余裕を崩さない。

「授業を楽しみにしてろ。お前が二度と立てなくなるくらいにブチのめしてやる」

 まるで三下の悪役って感じのセリフだ。
 俺は内心で苦笑してしまった。

 今まで、こんな奴にビビってたんだな、俺は。

 でも、もう違う。
 今日の授業で、あらためて──それを証明しよう。

 あのころの俺から脱却するために。

 そして、新たな俺の一歩を踏み出すために。



「レオンさん、大丈夫なの?」

 去っていったジェイルと入れ替わりに、マナが話しかけてきた。

「大丈夫だって。俺の力は知ってるだろう」
「それは……この間のダンジョン演習でもさんざん見たけど……」

 と、マナ。

「でも、やっぱり心配なの。ジェイルくんは性格は、その、あまりよくないけど……実力は確かよ。学内ランキングも入学して半年も経たないうちに、トップ10入り。今もそれをキープしてる」
「学内トップ10か。そんなに強かったんだな、あいつ」
「知らなかったんだ……」

 マナがため息をついた。

「模擬戦で、ちょっとでも危ないと思ったら、すぐ棄権したほうがいいよ。今までも、ジェイルくんは何人もの対戦相手を病院送りにしてる」
「まあ、気を付けるよ」

 俺はマナに微笑んだ。

「心配してくれてありがとう」
「えっ!? あ、まあ、それは……だって、レオンさんに傷ついてほしくないし……」

 なぜかマナの顔が赤らんでいた。

 ……まさか、俺みたいなオッサンに恋してるなんてことは……ないよな?
 いくらなんでも、そんな都合のいい話はないか。

 ……ないよな?

 あったら嬉しいけど。



 そして、午前中の授業が終わり、昼休みを経て──。

 俺はジェイルとの模擬戦に挑む。