「ええと、本題に入るんだけど──」

 リンに気圧されないよう気をしっかりと持ちつつ、切り出す俺。

「竜王の力で、他人を鍛えることってできるのか?」
「他人を? それって、レオン以外の人を強くしたいということ?」
「ああ」
「できるよ」

 リンはあっさりと言った。

「教えてくれ」
「ふーん……?」

 リンがニヤリと笑う。
 意味ありげに俺を見ていた。

「な、なんだよ……?」
「その相手って女の子?」
「っ……!」

 俺は思わず言葉を詰まらせた。

「べ、別にどっちだっていいだろ……っ」
「うわー、分かりやすい反応。ぷくくく」

 含み笑いをしているリン。
 俺はちょっとだけ憮然とした。

「あ、ごめんごめん。別にからかってるわけでも、馬鹿にしてるわけでもないよ」

 リンが謝る。

「なんか、こう……青春だなぁ、って思って」
「青春……なのか?」

 俺には縁遠い単語である。
 冴えないオッサンには、甘酸っぱい青春など無縁なのだ……。

「気になる女の子がいるとか、誰かのためにがんばろうとか、青春そのものじゃないか。僕たち竜王には、そんなものは欠片もないからね」

 リンが笑顔で告げた。

「生まれ落ちたときから絶対者として眷属を従え、神や悪魔といった超越者たちと血塗られた戦いを繰り広げ──そんな甘酸っぱい思い出なんてまったくなかったよ。きっと、これからもない」

 俺はハッと気づいた。

 リンは笑顔のままだけど──ちょっとだけ、寂しさが混じっているような気がする。
 もしかしたら、人間の青春時代みたいなものが羨ましいんだろうか?

「まーね」

 俺の内心を読んだように、リンがうなずいた。

「だから、君の話はとても面白いよ。興味津々だよ」

 リンが笑う。

「僕まで青春を味わってるような気分だ」

 今度は心から楽しげな笑みだ。

「ん? もしかして気遣ってくれてたの?」

 リンがたずねた。

「まあ……そうだな」
「そっか。ありがとう」

 リンがはにかんだように微笑む。

「さっき言ったように、僕はずっと血塗られた道を歩いてきたからね。誰かと心を通わせた経験なんてない。でも君は──」

 俺をまっすぐに見つめるリン。

「僕にとって、生まれて初めての友だちかもしれない」
「友だち……か」
「まあ、僕が勝手にそう思ってるだけなんだけどね。はは」
「そんなことはないよ。俺だってお前のことは友だちだと思ってる」

 俺はリンに笑顔を向けた。

「レオン……」
「たぶん。いちおう」
「……そこはきっぱり断言してほしかった」

 リンがちょっとだけ憮然とした。



 その後、俺は他者を強化する方法──いわゆるパワーレベリングについて教えてもらった。

 竜王の固有魔法にそういった呪文があるんだとか。
 対象にその呪文をかけると、普通よりも格段にレベルアップのペースが上がる。

 要は、簡単に強くなれるってことだ。

 ただし、それを実行するためには対象に──つまり、マナに承諾してもらう必要がある。

 細かい技術については、また学ぶ必要があるんだけど……とりあえず大枠は理解できた。

 今度マナに聞いてみるか。
 今より強くなりたいなら、いい方法がある、って。

 けど、切り出し方が難しいな。

 いずれ機会があれば、ってことにするか……。