「お前はクビだ、レオン」

 その日、俺──レオン・ブルーマリンは町の商会をクビになった。

 理由は、折からの不況で人員削減をするからなんだとか。
 俺の他に七人の社員がいて、首になったのは俺一人。
 つまり俺が一番無能だから、ということらしい。

 残念だが、否定はあまりできない。
 体力も頭脳も普通以下。
 剣や魔法といった特技があるわけでもない。

「一言で言えば、冴えないおっさんだからなぁ……はあ」

 商会の建物を出た俺は、ため息をついた。
 気が付けば30歳になったが、友人も恋人もいない。

「いや、プライベートのことはいいんだ。とりあえず、新しい仕事を探さないと……はあ」

 俺は二度目のため息をついた。



 一週間経っても、再就職できる気配はなかった。

 どこに行っても、
『職歴が~』
『学歴が~』
『この空白期間に何をされていたんですか?』
 ……などと、俺は経歴だけで面接に落ちまくった。

「さて、困った……」

 わずかばかりの退職金なんてすぐに底をつくだろう。

「本当に困った……」

 両親ともすでになく、俺は一人暮らしだ。
 自分の生活費は自分で稼ぐしかないのだ。

「──よし、冒険者になろう」

 決意した。

 冒険者。
 己の腕のみを頼りに、ギルドからの依頼を達成し、報酬を受け取る──実力次第では一獲千金も可能な職業である。

 ただし、このアロン王国では、冒険者になるために国家資格が必要だった。
 他の国ではそういう資格が不要のところも多いが、この国はけっこう厳しいのだ。

 ──というわけで、俺は冒険者学校への入学届を出した。

 ここは簡単な筆記試験と身体測定さえクリアすれば、誰でも入ることができる。
 国が全面的にこれらの学校を支援しているため、入学金も破格の安さである。

 俺は地元から数キロ離れた中規模都市──マーガスシティにある冒険者学校第22分校の生徒となった。



 そして、登校初日。

「うう、緊張する……」

 周囲には十代の若い生徒が多かった。
 特に女子が──それも美少女ぞろいで、ちょっとドキッとしてしまう。

 ただ、俺くらいのオッサンもちらほらと見つかった。
 もしかしたら、俺と同じくリストラされて再就職に困った口かもしれないな。
 ちょっと親近感が湧き、緊張が軽減された。
 と、

「何じろじろ見てんだよ、オッサン」
「うわっ……!?」

 背後からいきなり蹴りを入れられた。
 振り返ると、赤毛の美少年が俺をにらんでいる。
 こいつの仕業か。

「ちょっと、ジェイル~。キックはひどいよ」
「さっきもそれやって、泣いてたオッサンがいたじゃない」
「なんの取り得もないオッサンがここに来るのが気に食わなくてさ。エロい目で女子生徒を見るんじゃねーよ」

 ジェイルと呼ばれた少年が鼻を鳴らした。

 ……なんで、いきなり蹴られなきゃいけないんだ。

「ん? 文句あんのか? どうせリストラされて、冒険者になって一獲千金とか考えてる口だろ」

 ジェイルがせせら笑う。

「見るからに弱そうなくせして……できるわけねーだろ、ばーか」
「っ……!」

 さすがにイラっとくる。

「いいよ、だったら俺がお前に現実ってもんを教えてやる」
「えっ?」
「模擬戦だよ。生徒同士で力試しなんて、どこでもやってるし」

 これって、因縁を吹っかけられてるのか。
 くそ、なんで俺が──。



「ぐえっ……」

 試合開始からわずか数秒。
 俺はジェイルの木剣に吹き飛ばされた。

 勝負ありだ。

「いてててて……」

 ジェイルの奴、俺の右腕を手加減なしで打ちやがった。

 折れてないだろうな……?

「弱すぎ。お前、冒険者に向いてねーよ」

 ジェイルが笑って背を向ける。

「すごーい!」
「ジェイル、強い~!」

 女子生徒たちが歓声で彼を迎えた。

「そっちのオッサンは目障りよね」
「ほんと、冒険者なんて無理無理」
「さっさと退学すれば~」

 彼女たちは、俺に対しては侮蔑の視線だった。

 うう、登校初日からみじめだ……。


 ※ ※ ※

グラスト大賞に応募中です! 応援よろしくお願いします~!
よろしければ『感想』や『いいね!』をいただけると執筆の励みになります……!