「ふぅ~、なんか今日は飲んでばっかりですね」
「そういう場所だし、いいでしょ別に」

 ワインカーヴを出たあと、二人は展望デッキのテーブルに座ってだらだらと何もない時間を過ごしていた。二人で見つけた赤白のボトル、そしてお土産のソムリエナイフと、おつまみ類を買って、展望デッキにそれを広げていた。

「どう、少しはリフレッシュできた?」

 和華乃さんは、スーツを気崩した僕に尋ねた。

「はは、おかげさまで……」
「明日からまた頑張れる?」
「そう……ですね。はい、大丈夫だと思います」

 今日一日、彼女に具体的な話は何一つしていない。けど、しっかりと僕の状況を察していたようだった。本当、今日この人に会ってよかった。心からそう思った。今朝、一人であのホームに降りたときの感情。アレを抱えたまま東京に戻るの自分は、ちょっと想像できない。

 それに引き換え僕は……。

「うん? どうしたのいきなり?」

 顔をまっすぐ見据える僕の視線に、和華乃さんは少し戸惑いを見せた。この人と違い、僕は察しが悪い。だからちゃんと訊くしかなかった。

「和華乃さんはどうですか? 今日一日ここで遊んで、彼女さんとの思い出を整理できましたか?」
「…………」

 僕と和華乃さんは、無言のまま視線を合わせていた。傾き始めた日光が二人の顔の半分を照らし始める。

「"彼女さん"ね。やっぱそうか……」

 和華乃さんは言う。

「さっき、お風呂で考えてたんだ。あの日……駿吾におぶって貰った日、アタシ何を話したのかなって……」

 半分以上減った赤い液体をグラスの中で転がしながら、和華乃さんは続ける。

「本当に何も覚えてないんだけど……けどあの日、駿吾と会う前の事ははっきりと覚えてるんだ。そこから考えると……きっとアタシは、駿吾に酷いことしてる」

 僕の好意はバレバレだった。この人はさっきそう言った。僕の気持ちを知りながら、僕に自身の恋愛の相談をしたなら……たしかにそれは酷いことかもしれない。

「……話して下さい」
「うん」