「でも小雀、だめよ? ひとりで行っちゃ。今度は私も誘ってね」
「え?」

「ふたりならきっと逃げられたと思うわ」

 さすが親友と小雀は笑った。
 頭中将が聞いたらさぞかし肝を冷やすだろう。




 その夜、小雀の局に彼が訪れた。

「薄野はどうなるのですか?」
「彼女たちは悲田院で働いてもらうことになりました。俸禄も出ますし、大変だとは思いますが罪は罪ですからね」

「そうですか。彼女には年老いた母君がいるから心配していたんですけれど、よかった」

 優弦がため息をつく。
「あなたは人の心配の前に、自分の心配をするように」

「はーい」
 膨らませた頬を優弦が弾く。

「あなたの母君とも相談したのですが、結婚しましょうか」

「え? 誰とですか?」

「あなたと私が、ですよ?」

「ええ! そんなの無理ですよ」

「なぜです? 董子は私が嫌いなのですか?」

 ――董子?
 家族しか知らない、小雀の本当の名前。

「だって……。あ、それなら私、末席の妻でいいですからね」

「あはは。私はあなた以外に妻を持つ気はありませんよ」

「そんな。でも月冴の君は」

「優弦だよ。私の名前は」

 言ってごらんと促されて「優弦さま」と言ってみたけれど、なんだか恥ずかしい。

「董子」

 小雀は抱き寄せらた。

「あの……。でも私、夜盗ですよ?」

「私も闇烏ですからね」