私は、高笑いする。

理由も無く、笑いが止まらない。

篠生の死体、老夫の死体、老婦の死体、老婆の死体、来訪者の死体。

一つ一つを見ると、何故か堪えがたい笑いが押し寄せる。

顔一杯に笑いが広がる。

抑えようにも収まらない。

妻の横たわった姿に視線を向ける。

その瞬間、口角は大きく下がり、目も細く、目尻が下がった。

妻の隣に、娘も横たわっている。

一瞬も余韻を残さずに、笑顔はしーんとした虚無を残して去っていった。

視界は細かく揺れ動き、光景を曖昧にする。

脳は明らかに違う解釈をでっち上げる。

寝ているだけだ。

誰かが、家族を殺したんだ。

そうだ、今、夢の中なんだ。

しかし、手に残った指圧の感触が、現実を突きつける。

再び、笑いが込み上がる。

高笑いが止まらない。

笑みで膨らんだ頬に涙が伝う。

首は、ぶるっと震える。

首から上の頭部は、勝手に前後左右、不規則に動く。

その動きは、まるで、壊れたロボットのようだ。

ギターが視界に入ると、あの旋律が頭の中で流れる。

その途端、高笑いも首の動きも止まった。

私は、徐に、ギターを持つ。

一番細い弦が切れているギター。

そのギターを見て、死に方が決まった。

「もうちょっと待っててね」

亡骸の妻と娘に言う。

私は、レストランのカーテンを開けてまわる。

全てのカーテンを開けた。

外は、白い朝陽に反射した霧が充満していた。

その霧は神秘的で、既に天界に居るように思えた。

私はレストランの中央へ戻る。

欠けた噴水の縁に座り、足を組んだ。

ギターを膝の上に乗せて、弦に指を置く。

そして、篠生から教わった曲の出だしのコードをぽろんと弾いた。