あわよくば、楽に死ねる方法がないかと考える。

しかし、楽に死ねる方法はあるはずもなく。

死にたくないと考えてしまう。

不意に、私の口から小さく笑いが吹き出た。

死にたくないのは、今、正常な精神を保っているからだろう。

篠生のロープを手に持った。

天井の梁にロープをかけて、首を吊ろう。

これで何もかも、おさらばだ。

ロープを梁にかけた。

篠生は、自殺する為に、ロープを持ってきていたのだろう。

ロープの先端を鋭利に欠けた噴水のオブジェクトに縛りつけた。

きゅっきゅっと、引っ張り、ちゃんと縛ってあるかを確認する。

もう片方のロープの先端に輪っかを作る。

その時だった。

床に投げ飛ばされている老婆の分厚い本が、視界に入った。

そうだ。

全ては、老婆が、霧の中に悪魔が居ると言ったのが始まりだった。

梁から垂れ下がったロープを手から離し、分厚い本へ近づいた。

私は、その本に手を触れた。

ずしっと重い本を両手持ち上げる。

その本の表紙は、なめしが、良く効いた革素材でできている。

僅かに弾力のある表紙を指の腹で感じた。

きっと、古代文字や難しい文字で記されているに違いない。

そう想定しながら、表紙を開く。

私は、驚愕した。

本の一ページ目から、全く想定していなかった内容だった。