「わかった。一緒に死のう」

私は、妻にそう言った。

ほわんと、妻は笑みを浮かべた。

久しぶりに見た、妻の笑顔。

いつもと違って、やつれているが、それでも、妻が愛くるしい。

「うん」

妻は小さく応える。

もう妻の笑顔が見れないと思うと、やるせない。

あの世で会えるだろうと、都合の良い考えで、自らを納得させる。

「すぐに行くから、待っててな」

「うん、あの子と待ってる。早く来てね」

妻は、そう言うと、目を閉じて、顎を上げた。

ほんの一日前までは、妻が目を閉じて、顎を上げる仕草は、接吻を求める時だった。

しかし、今は、絞殺を求める仕草だった。

私は、両手で、そっと妻の首に触れた。

両手に力を入れる。

妻は、私を見る。

一本一本の指の腹に伝わる、妻の柔肌。

指圧を強めると妻の首に、私の指が、ぐぐぐと食い込んでいく。

呼吸が困難になる。

見る見るうちに、妻の顔が赤く腫れていく。

目は、うるうると潤い、唾液が滴る。

これ以上、妻の苦しみに歪む表情を見たくないと、無意識に指圧が止まる。

しかし、これを越えて、私も死ねば、あの世で会えるはず。

再び、指圧を強める。

妻の全身の力が抜ける。

間もなくして、妻は、意識を失った。

私は、心に鬼を宿したように、更に首を絞め続ける。

しっかりと殺さなければ、あの世で離れ離れになってしまうから。

妻の顔に出血斑が現れる。

私は、妻を殺した。

妻にとって、私が悪魔なのではないか。

私は、両手を妻の首から離そうとした時。

思いもよらぬ光景に目を疑った。

娘が、むくっと上体を起こした。