「あいつだ! あいつこそが悪魔だ」

老婆は叫んだ!

炭になった郷珠を人差し指で指す。

その声は、おどおどしている。

「郷珠さんは違う! 私達を悪魔から守ろうとしたんだ」

私は言う。

「守る? あいつは自殺を見せつけて、嫌な思いを与えてきたのだ。悪魔に違いない!」

老婆は立ち上がり、ずかずかと床を踏み歩いて、出入り口まで行くと、扉を閉めた。

「あなたは最低な人だ。私には、あなたが悪魔に見える」

私は老婆に言う。

その声に、怒りが滲む。

「ふん! 何を言うか。お前も悪魔に犯されたか」

老婆は私に言い放ち、席へ戻った。

私の中で何かが弾けたのを感じた。

それは、煮えたぎった何かだった。

気が付けば、私は、老婆に掴みかかっていた。

私を止める者は居ない。

私は止める事が出来ない。

私は両手で、老婆の胸ぐらを掴む。

「私達は、あなたの信仰するアーをずっと待ってきた。しかし、全然助けに来てくれないじゃないか! 私達は、あなたを信じて、じっと耐えてきた。しかし、みんな死んでいった! あなたが悪魔だ!」

老婆の顔に、私は顔を近づけて、怒鳴った。

「黙れ! もう来る。今暴れて、私が怪我をしたら、来るものも来なくなってしまうぞ」

「うるせえ!」

私は、右手に拳を握り、振るい上げる。

どうしてだろうか。

私の目から、ぼろぼろと涙が溢れ出る。

その涙に、妻と娘の笑顔が滲む。

私は、止める理由が見当たらなかった。

ぎゅっと拳を緊く握り、老婆の左頬へ目掛けて突いた。