その瞬間、灯油に濡れた郷珠の体表を覆うように、放射線状に炎が走った。

一瞬で、足元まで到達し、地面に溜まる灯油の表面にも炎が点く。

郷珠の全身は炎に包まれ、火達磨になった。

火先は、ぐらぐらと不規則に揺れる。

炎の中に、郷珠の影が見える。

その影は茶褐色の焦げたような色だった。

郷珠は、合掌して座禅を組んだ姿のまま動かない。

その姿から、人智を超えた意志を感じる。

何かを私達に教えようとしている。

そう感じた。

私は、超越した光景に驚倒し、体全身に力が入り、固まっていた。

炎は収まる事なく、郷珠を焼き尽くす。

衣服はとろけて無くなり、髪の毛も溶けて、坊主になる。

郷珠の体は炭化を始め、炭のように黒くなっていく。

店内に、嗅いだ事も無い、焼け焦げた激臭が漂う。

肉を焼くような臭いに、苦みが含まれる。

その臭いは、私の鼻を通り、口の中に染みつく。

郷珠の目元がぷちゃっと破裂した。

とろけた目元は、瞬く間に黒く炭化する。

次第に、激臭は更に猛烈な臭いに変わる。

その臭いで臭覚が痺れる。

老婆は、おえっと、吐き気を催す。

店内は、人の焼ける匂いと灯油の匂いが充満する。

郷珠は、郷珠と認識出来ない程に、真っ黒な炭になっていた。

その時、ぱきっと折れるように郷珠の体勢が崩れた。