無意識のうちに、私は後ずさりしていた。

この空間から早く離れたいと言うように、体が拒絶していた。

書斎を出ると、体を後ろに向けて書斎を背にした。

足が意図せずに歩き始め、シャッターの方向へと向かう。

焦燥とした足取り。

窓の下にある灯油タンクを二つ手に取り、足早にシャッターを潜った。

シャッターを下ろす。

早く下ろしたい。

しかし、音を出してはいけない。

シャッターを下ろす、私の腕の力が、頭の中でせめぎ合う。

床までしっかりと下ろし、異様な空間に蓋をした。

厨房を通り、店内へ戻った。

「ありましたか?」

郷珠は言う。

「あ、ああ」

私は息を整えながら言う。

妻は放心状態のまま、虚ろな目で自らの足元を見ている。

老婆は、私を見ている。

「ありがとう、もう一つお願いがあります。灯油タンクを出入り口に置いてください」

郷珠は言う。

「何をする気ですか?」

私は、そう言いながら、灯油タンクを出入り口に置いた。

郷珠は、すっと立ち上がり、ランタンを片手に持つと、足元を照らしながら、出入り口へ向かう。

私は、妻の所へ戻り、郷珠の行動に注目する。

「郷珠さんが、生贄になっている時に、レストランから出よう」

私は、妻にこそこそと言った。

妻は、正気を失い、私の言葉すら反応を示さない。

郷珠は、白杖を突きながら、出入り口へ歩みを進める。