右の壁際には、割れたウイスキーの瓶の破片が散らばり、ウイスキーで床が濡れている。

そのウイスキーは、誰かによって、壁へ投げ飛ばされたのだろう。

食器棚に並ぶ食器は、綺麗に重なり、汚れ一つ無い。

床は、一部分だけ、空き巣が入ったようになっているが、ごみ一つ落ちていない。

部屋の奥に、一つ、扉があった。

私は一歩ずつ、歩みを進めて、その扉に近づいた。

扉は、僅かに開いていた。

もしかしたら、空き巣の犯人が居るかもしれない。

いや、悪魔が入って、部屋を荒らしたのかもしれない。

私の頭は様々な想像をした。

どちらにしても、部屋は荒れていた。

危害を与えてくる悪い何かに違いない。

私は、息を呑み、その扉を開けた。

しかし、そこには、誰も居なかった。

小さな書斎が在った。

書斎は窓一つ無く、薄暗くて重苦しい。

書斎に踏み入れる。

書斎の机の上には、一枚の紙が置かれている。

その紙には、隙間を埋めるように文字が書き記してあった。

・朝七時に起床して、俺の飯を作る事。
・お前は俺の指示に従う事。
・俺が怒ったら、喜ぶ事。
・お前は至らないと自覚する事。
・俺がお前の為にしている事を常に自覚して、感謝する事。
・お前が駄目だから、俺が教えてあげている事を常に自覚して、感謝する事。
・俺からのメールは、すぐに返す事。
・食事の品は三つ以上。
・俺の欲を満たす事に喜びを感じる事。

まだまだ書かれている。

その常軌を逸した内容に、私の顔が引き攣る。

「ここはなんだ」

私は呟いた。

かさかさと息が漏れた声に、恐怖の色が混ざる。