もしかしたら、シャッターの外には大勢の悪魔が居るかもしれない。

開ける音で悪魔が集まるかもしれない。

しかし、私の心の中に現れた卑怯な思考が、肯定化する。

郷珠が生贄になっているうちに、妻とレストランから出れば助かるのではないかと。

気が付けば、私は、シャッターに両手をかけていた。

シャッターの取っ手は、じとっと濡れている。

よく見ると、シャッターは、おびただしい水滴が広がり、結露していた。

ぐっと、力を入れて、シャッターを上へ持ち上げる。

結露で、ぎゅっと手を滑らせる。

ゆっくりと開けていく。

がらがらがらと小さな音が鳴る。

すうっと、涼しい風がシャッターの向こう側から入り込む。

半分くらいまで開けたところで、私は、シャッターをくぐった。

一つの部屋があった。

レストランと同様に木を基調とした部屋だ。

窓が一つ有る。

窓の外は、朝まだき、真っ白な世界が広がっている。

窓の下に灯油タンクが二つ並んであった。

私は、灯油タンクを見て、小さく頷いた。

部屋の中央には、食卓机がある。

その机の上には、何本も注射器が無造作に置かれている。

椅子は二つあり、どちらも倒れている。

部屋にあるクローゼットは、開きっぱなしで、床まで衣類が散乱している。