鮮やかに思い出される一つの記憶。

私が妻にプロポーズをした時だった。

プロポーズの言葉を今でも覚えている。

私は、結婚指輪の入ったリングケースを開けて、妻に見せて、言ったんだ。

「あなたの無邪気な笑顔をいつまでも守りたい。私と結婚してください」

強い緊張から、息が詰まり、声も途切れ途切れになりながらも言った。

妻は、結婚指輪を見た後、私の顔を見て、「はい」と答えた。

妻は、今にも泣きそうな表情だった。

目はキラキラと潤い、顔は赤く熱っている。

私は、妻の細い薬指に、すうっと結婚指輪を付ける。

その時、誓ったんだ。

何があっても、妻を守っていこうと。

しかし、今、妻は、私の手で苦しんでいる。

妻は目を閉じて、苦痛に顔を歪ませている。

顔は赤く腫れて、閉じる目尻から一筋の涙が流れる。

その涙が私の手首に滴る。

妻の涙が温かく感じる。

はっとして、思わず、妻の首から、両手を離す。

妻は、大きくむせている。

息をぜいぜいとして取り込み、呼吸を整える。

「やはり、私には出来ない」

私の両手は強く緊張して震えていた。

妻は、娘の髪を撫でる。

まるで、まだ生きているかのように、さらさらとした髪。

妻は、娘の乱れた髪を手ぐしで整えていく。

私は、妻の腰に腕を回して、そっと抱き寄せる。