「お願い。この子が遠くに行っちゃう前に早く!」

妻は、私の両手を引き寄せて、妻自身の首元へ付ける。

私の両手の指を一本一本を妻自身の首に当てがる。

「ふざけるな! できない!」

私は、首を大きく横に振った。

「じゃあ、この子が、迷子になってもいいの?」

「そうじゃない! 私の側に居て欲しいんだ」

「ありがとう。でも、私は、この子が居ない人生、生きている意味が無い」

「そんな事無い、頼むから考え直してくれ」

妻の目に、一つも迷いが無かった。

あたかも、それが一番の最善な正攻法だと言っているかのようだった。

「お願い、この子が迷子になっちゃう」

妻の揺るぎない眼差しは、私を混乱させる。

私は、妻を止める理由が見当たらなかった。

妻に生きていて欲しい。

そう願うのは、私だけであって、妻ではない。

ただ、私は自己満足を得ようとしているだけではないか?

私の頭に様々な思考が飛び交う。

私が独りぼっちになるのが怖いから、妻に生きていて欲しいだけなのではないか。

妻が居なくなったら、私がここに居るという存在はどのようにして認識すれば良いのか。

しかし、これらは、全て、私を守ろうとしているに過ぎなかった。

悪魔が放たれた、あの時、私は、決意したはずだ。

家族を守ると。